国内

闇市 平均月給100円の時代にコッペパン1個10円でも売れた

 終戦間もなく隆盛を極めた闇市は、新宿でオープンし、全国に広がっていった。ジャーナリスト・猪野健治氏が当時の様子をレポートする。

 * * *
 闇市での価格は需要に直結していた。たとえば、着古しの背広は値を下げても売れず、肌着などの日常着は人気があった。最も需要があり高値だったのは禁制品の米や麦などの食料品だ。

 当時は日本中が飢えていた。政府の主食配給は一日に1200キロカロリー分にすぎなかった。成人に必要とされる最低カロリーの半分だ。それも、米のかわりに芋や芋のつるに換算して配給されることが多く、遅配・欠配もざらにあった。これでは生きていけないから、一般の人は着物を売るなどして闇市に頼るしかなかった。

 平均月給が100円の時代に、コッペパンが1個10円。そんな高値でも作るそばから売れていった。闇屋に米を売ったほうが儲かるので、政府への供出義務を怠る農家も多かった。取り締まる側の警官でさえ、堂々と闇物資を買っていた。

 ヤクザや愚連隊などが雑多に入り乱れる闇市は一見無秩序の側面も見られるが、闇市ならではの秩序形成と義侠心も垣間見られた。

 中には理想に燃えて人助けに励む者がいたことも事実だ。例えば露天商を統率してきた関東尾津組が開いた尾津マーケットがある新宿では無料の診療所が開設された。これは人助けの理念を持ったある医者の人柄に尾津が惚れこんで、経済的にバックアップしてできたものだ。また、旧軍の食糧庫を襲って得た米で7日間無料の炊き出しを行うグループもあった。

 このようにして日本国民の命をつなぎとめていた闇市だったが、そこに蠢く民衆のエネルギーは、「革命」をなにより恐れるGHQの忌み嫌うところとなる。そのため警察権力の回復とともに取り締まりが強化され、昭和26年末の露店整理完了をもって闇市は歴史の表舞台から姿を消す。

 闇市とは戦後の焼け跡の中から自然発生的に生じた復興の営みであった。日本では今後も危機に直面したとき、こうした先駆的な行動をとる人々が必ず現われ、復興の原点をつくるに違いない。

※SAPIO2015年10月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

女優のジェニファー・ローレンス(dpa/時事通信フォト)
<自撮りヌード流出の被害も……>アメリカ人女優が『ゴールデン・グローブ賞』で「ほぼ裸!」ドレス姿に周囲が騒然
NEWSポストセブン
豊昇龍、大の里、八角理事長
【八角理事長が「金星」を語る】大の里、豊昇龍が歴代最多配給ペースに! 理事長は「今は三役が少ないから。2横綱はよくやっている」と評価 現役時代の安芸乃島戦を振り返り「平幕の時は嫌な感じが…」とも述懐
NEWSポストセブン
次期衆院選への不出馬を表明する自民党の菅義偉元首相(時事通信フォト)
「菅さんに話しても、もうほとんど反応ない」菅義偉元首相が政界引退…霞が関を支配した“恐怖の官房長官”の容態とは《叩き上げ政治家の剛腕秘話》
NEWSポストセブン
ボニー・ブルーがマンU主将から「発散させてくれ」に逆オファーか(左/EPA=時事、右/DPPI via AFP)
「12時間で1057人と行為」英・金髪インフルエンサーに「発散させてくれ…」ハッキング被害にあったマンU・主将アカウントが名指し投稿して現地SNSが騒然
NEWSポストセブン
現地の“詐欺複合施設”(scam compounds)を追われる人たち(時事通信=AFP)
《“カンボジアでかけ子”日本人が13人逮捕》「空港に着いた瞬間に拉致」「 “詐欺複合施設”で囚人のような生活も」“国際詐欺組織”が日本人を闇バイトに引き入れる恐怖の手口
NEWSポストセブン
参政党は国政経験が乏しく、国会議員経験者を積極的に受け入れているという(時事通信フォト)
《参政党議席増で高市政権連立入りの可能性》 重婚疑惑に「このハゲー!」発言…自民党を追われた“すね傷議員”を続々擁立か「自民党に恩を売る絶好の機会」
NEWSポストセブン
巨人への移籍が発表された楽天・則本昂大(時事通信フォト)
楽天・則本昂大の巨人入りに大物OBが喝! 昨年の田中将大獲得に続く補強に「下の下のやり方。若手はチャンスがなくなりやる気が失せる。最低ですよ」と広岡達朗氏
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組が初詣に》“武闘派エルメス若頭の動向”に警察が関心…司忍組長不在の参拝で注目集まる「七代目誕生時期」
NEWSポストセブン
“マッサージ店”の元マネージャー、プンシリパンヤー・パカポーン容疑者(38)。12歳のタイ少女にわいせつな行為をあっせんさせた疑いがある(写真右:時事通信)
〈仕事の初日、客は1人〉〈怖くて手も腕も足も震える〉押収物の“日記”に綴られた壮絶な日々……12歳タイ少女に性的サービスあっせんの“ブローカー”タイ人女性(38)が検挙
NEWSポストセブン
中国出身の女性インフルエンサー・Umiさん(TikTokより)
「長期間歩かずにいたせいで神経に影響」クスリ漬け、歯を全部抜かれたのでは…中国ギャル系インフルエンサー(20)の現在の容態《“詐欺集団の幹部の恋人”説に本人が「以前はね」》
NEWSポストセブン
北海道日高町で店の壁の内側から遺体が見つかった事件。逮捕された松倉俊彦容疑者(49)、被害者の工藤日菜野さん。(左・店舗のSNSより、右・知人提供)
「2人の関係は公然の事実だった」飲み屋街で目撃されていた松倉俊彦容疑者と被害女性の“親密な関係” 「『嫁とはレス』と愚痴も」【日高・看護師死体遺棄】
NEWSポストセブン
島根県の私立松江西高校で男子生徒が教師と見られる男性に暴言や机や椅子を投げたりする動画が拡散されている(HP/Xより)
「謝れや、オラァ!」私服の生徒が暴れ、“おじいちゃん教員”は呆然と立ち尽くし…「炎上した動画は氷山の一角です」島根・松江西高校のOBが明かした“環境激変”の実情
NEWSポストセブン