総務省では、マイナンバー導入にかこつけて2016年度予算に向け「自治体支援費」を計上しようと検討が進められているという。総務省の中堅キャリア官僚がこう明かす。
「日本年金機構の個人情報流出が“いいきっかけ”になった。全国の自治体を調査すると、税金などの個人情報を扱っているパソコンを、インターネット接続できる系統から完全分離している自治体は1割弱だった。サポートが切れたウィンドウズXPをまだ使っている自治体もかなりある。マイナンバーの個人情報漏れを防ぐためには、各自治体で新しいパソコンを増やし、システムを更新しなければならない。しかし地方では予算がないから、国が支援する必要がある」
そういう理屈で予算をぶんどろうとしているのだ。
厚生労働省では、年金や健康保険の手続きでマイナンバーを利用するため全国300か所の年金事務所のシステムを構築する必要があり、巨額の費用がかかる。それに加えて労働基準監督署やハローワークでもマイナンバーを使おうと準備が進められている。
まだある。多くの天下りを受け入れていたことでかつて問題になった財団法人「地方自治情報センター」が、「地方公共団体情報システム機構」に組織改編された。予算書を見ると今年度700億円もの事業費を計上しており、うち500億円以上がマイナンバー関連事業とされている。同機構の副理事長と理事は、もちろん総務省出身の天下りだ。
内閣官房には、「政府CIO(チーフ・インテリジェンス・オフィサー)」なる聞き慣れない肩書きを持つ「内閣情報通信政策監」を長とする、「IT総合戦略室」という組織がある。ここにもマイナンバーを担当する班が存在する。
こう見てくると、“マイナンバー特需”に沸いているのは官僚たちだけだということがよく分かる。
今後、会社員は家族分を含めたマイナンバーを会社に提出し、2016年1月からは証券口座開設の際に番号を求められ、2018年からは預貯金口座のマイナンバー登録も始まる。企業には厳しい個人情報管理が要求され、従業員100人の企業のコスト負担は初期費用で1000万円、毎年400万円ほどになるという試算もある。
本当に〈国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する〉仕組みになるか、監視が必要だ。
写真■共同通信社
※SAPIO2015年11月号