ただ、今回の事故の動画拡散で、ネットの声の大半は人間ピラミッドにかなり否定的だ。「教師たちの満足のために生徒たちが犠牲になるって何?」「感動感動と我が子がキケンにさらされているのに喜んでいる保護者たちの頭もおかしい」と口を極めている人たちが多い。「これを機に人間ピラミッド自体をなくせ」と断じる声も少なくない。
うーん、あの10段ビラミッド崩壊動画を観たらそう言いたくなるのも分かるのだが、ピラミッド禁止まで言ってしまうと、安全第一でがんじがらめになってしまう。それはそれで違うと思う。
ついこの間までの私はそう思っていた。しかし、この原稿を書くため、あらためて人間ピラミッドについて調べてみて、私も「禁止」のほうに意見が寄りつつある。というのも、今回の大阪府八尾市の事故ではほとんど報じられていなかったのだが、これまでにこの種の演技で、次のような重大事故が起きていたことが確かなようなのである。
・1988年、愛媛県の小学6年生が、卒業アルバム撮影中にピラミッドが崩れ、圧死。
・1990年、福岡県福岡市で県立高校3年生が、体育祭の練習に崩れた構築中の8段ピラミッドの下敷きになり、脊髄損傷。全身麻痺の後遺症(身体障害者1級)を負う。
・1995年、神奈川県相模原市の中学3年生、人間タワーが崩れて、死亡。
腕や足の骨折報告は無数にある。それらを省いて、分かった限りの重大事故のみを上記したのだが、すでに2人も生徒が亡くなっているのだ。この問題を注視してきた人々の間では周知の事実のようだが、一般的には知られていない。なぜ、マスコミが騒がなかったのだろう。どうして安全安全と口うるさい保護者たちの間に広まらなかったのだろう。私を含め、多くが単に無知だったのではないか。
他の演技や競技と比較して、どれほど危険性の高いものなのか、人間ピラミッドについてはもっと科学的に分析されるべきだ。その上で正式に教育界がガイドラインを作るといい。
そして、死亡事故が起きている事実は、遅まきながらでも重く受け止めなきゃいけない。大阪府八尾市の人間ピラミッド崩壊時に、私が感じた「やばいだろっ」という感覚。もろもろを知った上でもう一度動画を見ると、それは「死」を直観すべきものだった。今年の運動会で緊急的に同演技を中止とする学校が出たとしても、自然な判断だと思う。