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安全第一の運動会で今なお進化する「人間ピラミッド」の是非

 運動会における「人間ピラミッド」の是非が話題になっている。過去には生徒の死亡事故も起きていた。教師の自己満足なのか、教育効果は本当にあるのか。コラムニスト・オバタカズユキ氏が考える。

 * * *
 最近は春に行う学校も増えているが、10月12日は体育の日だ。この連休では運動会が各地で開かれているはずである。

 その運動会で人気のある演技種目の人間ピラミッドが、今、問題になっている。先月の27日に大阪府八尾市の中学校の運動会で、1年生から3年生までの男子生徒157人が作ろうとした高さ10段の人間ピラミッドが崩れ落ちたからである。

 結果、下から6段目を担当していた1年生が右腕骨折、他5人が打撲を負った。だが、コトが大きな問題化したのは、そうしたケガ人が出たこと以上に、ピラミッドの構築と崩壊の状況を鮮明にとらえた動画がネット上に出回って炎上したことによる。同じ内容の動画はまだ視聴できるはずだから、探し出して是非見ていただきたい(保存すべきである)。

 ドドドド、ドドドド、ドドドド、という太鼓のリズムと、女子生徒や父兄ら観客席からの主に黄色い大声援。それらをバックに、白Tシャツに青ズボンの男子生徒たちが、ハイスピードで立体ピラミッドを作っていく。人間が人間を踏み台にしてロッククライミングのように昇りながら、着実に三角錐状のかたまりを巨大化させていく。へー、今どきの人間ピラミッドはここまで進化しているのかー、と見ている私は目を見張る。

 動画でも、7段、8段目まではスムースに人間が積み上がっていった。難度が高く、失敗することも多いからか。9段目ぐらいから声援が一際大きくなってきた。そして、てっぺんで掲げるつもりだったのか、丸めた旗(校旗?国旗?)をたすき掛けした最後の生徒が、大人の背丈の3倍以上ありそうな頂に向かった。8段目までは順調に昇って行った。

 だが、9段目を築いている2人の背中に乗ろうとするも、かけた左足がすべってうまくいかない。ピラミッド全体がぐらりとゆれた。見ている方もヒヤッとした。それでもどうにか両の足を乗せ、9段目の者の肩を掴んでいる手を放して立ち上がろうとしたその時、ピラミッドが崩壊。最上部が最下部の中心部に落下するような形で一気に崩れた。

「これ、やばいだろっ」。パソコン画面を前に、思わず私は声をあげた。観客席の歓声も悲鳴に変わった。だが、失敗したケースも想定した練習を重ねてきた成果だろう。崩壊から間もなく、ピラミッドづくりをしていた男子生徒たちは足早に移動、整列。最後にうつむいた2人の生徒が教師らに支えられながら退場する際には、会場から「よくやった」という意味の拍手が起きたのだが……、でもしかし、これはもうちょっと騒然となって当然のヤバい光景なのではないだろうか。

 10月1日に事故を報じた朝日新聞のネット記事には、〈小中学校の運動会で実施される組み体操をめぐっては、全国的に骨折などの事故が起きており、大阪市教委は9月1日、ピラミッドの高さを5段に制限することを決めている〉とあった。大阪市教委は正しい。あの10段はあまりに無謀だ。迫力には欠けるが5段ぐらいが適当だ。

 それにしても不可思議なのは、ここ10年20年30年で、安全第一であると、ほとんどの小中学校の運動会から棒倒しが消え、騎馬戦のつぶし合いが禁止となったのに、なぜ人間ピラミッドだけがこれほど「進化」したのかだ。朝日新聞が今年の4月6日に報じた〈人間ピラミッド、誰のための高みか?〉という記事では、以前からこの演技の問題性を指摘してきた名古屋大学の内田良准教授がこうコメントしている。

〈組体操の集団主義、「みんな一緒にやる」ことへの違和感を多くの人が抱いている。でも現場では、一体感や感動という言葉で、集団主義の問題点が覆い隠されています〉

〈組体操の流行はユーチューブなど動画サイトや、教師向けの雑誌の影響が大きい。(中略)広い世代の先生に組体操は支持されていると思います〉

 人間ピラミッドなどの組体操を解説しているサイトを見てみると、たしかに「一体感」や「感動」が強調されている。組体操の素晴らしさを説くオピニオンリーダー的な存在の教師も何人かいるようで、彼らは「安全性を高める工夫はなされている」「誰でも参加でき、参加した生徒たち全員が、協調性を学べる素晴らしい演技だ」「ピラミッドを成功させたときに感じる達成感は、他に代えがたい」などと意見している。

 彼らの言葉に嘘はないだろう。達成感については私も経験的に知っている。人間ピラミッドは、どの段のどの位置を誰が担当するか、個々の体力や適性をちゃんと判断して役割分担を決め、全員が心をひとつにして取り組まないと積み上がらない。そしてそれが成功すれば、相応の感動を覚える。「集団主義」は、イコール悪ではない。10段は行き過ぎだが、この演技のいいところもある。

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