1980年代は、刑事ドラマなどでダンディな大人の二枚目役を数多く演じ、役者としてのイメージを決定づけている。
「今までに演じてきた芝居が離れてないんですよ。いくつもいくつも役を作っていくうちに、そういうものが体についてきて、自分の中で影響をし合っている。
特に刑事ものをやっている時は、どこを向いても『藤竜也』でさ。金太郎飴みたいに、どこを切っても同じ。だから『藤さん、今回の役はどう?』なんて聞かれても『いつもと同じだよ。藤竜也』みたいな。
あの時期の僕は、それでいいと思っていたんですよ。『愛のコリーダ』でイメージが重苦しくなるというのが嫌だった。だから、楽しくワーッとやろうと思っていたんです。ただ、それも秋風が吹くまでの話でね。そう長々と続きはしませんよ。
いつも気を付けていたのは、体が丈夫じゃないと仕事はできないということ。いくつになっても、体が動いてセリフが言えれば、『あいつ、まだ生きてるんだ。動けるらしいよ』ということで仕事をもらえますから。
特に僕はアクションの出だから、体が動かないということに本能的に恐怖を感じる。日活を辞めたんだからそんなにハードなトレーニングをしなくてもいいようにも思ったけど、刑事ものをやるようになると飛んだり跳ねたりが多いから、やっぱりやっておいてよかったと思った。
僕は演技派だとは思っていません。アクションの人間です。だから、体を鍛えるというのは、演技とセットとしてあります」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年11月13日号