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橋本治 自らの老い、借金と貧乏を赤裸々に綴ったエッセイ

【著者に訊け】橋本治さん/『いつまでも若いと思うなよ』/新潮新書/799円

【本の内容】
 自らに起きている「老い」の実相を赤裸々に綴りながら、世の中で言われている他人事としての「老い」や、「老人になること」の意味を軽やかに分析した。『新潮45』の連載「年を取る」に加筆したもの。自らの老いや幾多の病気、そして借金と貧乏を軽妙かつ赤裸々に綴り、年寄りについて考えたエッセイ。

「(借金)返済が終わったら? う~ん、何も変わらないんじゃないかなぁ。完済前にどうにかなるかもしれないし、わからないなぁ」(橋本さん・以下「」内同)。

「はじめは老い一般の話を書いてて、そうするとお前はいい年をして何言ってんだ、ってことになるだろうから、ちなみに私は…って自分の悲惨な話を書いたんです。他人のじゃなく自分のだからいいでしょ、って、ある種、アリバイみたいなものですね」

 バブルのピークにマンションを買って、1億8000万円ものローンを背負う。ただでさえ働きすぎなのにそのマンションの理事長を押し付けられ、過労で入院すれば、数万人に1人の難病と診断される。わが身に起きた数々の災難を、橋本さんはじつに淡々と描く…どころか面白がってませんか?

「病院って不思議なところで、難病度が高い人ほどエバれるんですよね。若かったら早く治んなきゃって焦るけど、私は年寄りだからしょうがないよな、って思ったし。理事長は、一応作家だから経験しといたほうがいいかな、って。人間あまりにも忙しいと断るということができなくなるんですよ。そういうこともわかるので、やっぱり経験しておいて損はないです(笑い)」

 命にかかわる大病をして、橋本さんに何か変化はあったのだろうか。

「ああ、人間いつ何が起こるかわからないんだな、ってことは体でわかりましたね。足がふらついて、階段で足踏み外してコンクリートで頭打って、明日死んじゃうかもしれない…だからどうだってこともないんですけど」

 社会のある断面を思いがけない角度で切り取って見せ、時に反転させる。時評やエッセイのキレ味は相変わらず鋭く、いつのまにか入院前と変わらない仕事量をこなしている。

「貧しくて病を抱えた老人っていう三重苦の人なんだから仕事できません、って言うと、編集者が『そうは見えません』って。見える見えないの問題じゃないんだってば。社会時評なんて、本当は若い人にやってもらわないと困るんですよ」

 40才で30年ローンを組んだとき、完済したら自分はもう老人だ、と思った。その70才まであと2年半。書斎にうず高く積まれた手書き原稿の束の、1枚1枚が返済に充てられてきたのかと思うと感慨深かった。ひょっとしたら、この借金があったために、橋本さんの質量ともに超人的な仕事がのこされたのでは?

「それは逆です。ずっと書くつもりだから借金したんです。なんでそんなに仕事するんですか、って聞かれたときに、借金返さなきゃいけないからです、って答えると簡単じゃないですか。日本の作家で貧乏経験してないのって問題じゃない?って、結局、何考えてるのかよくわかんない人ですね(笑い)」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2015年12月3日号

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