昨今、米国に逃げる中国の腐敗官僚は後を絶たない。摘発すべく、情報機関関係者が秘密裏に訪米し捜査することは、「キツネ狩り」と称される。まさに中国政府が最も捕まえたいキツネが令完成氏だった。

 訪米後しばらくはカリフォルニア州に暮らしていたようだが、その後の行方をつかめない。米国政府が匿っているらしい、との情報を中国当局は掴んだ。令完成氏の存在が瞬く間に米中外交の主要テーマに変わった。習近平国家主席は訪米前に警察、情報機関の幹部を送り、令完成氏の身柄引き渡しを要求する。

「中国側は米国のテロ対策などを担う国土安全保障省が身柄を保護しているとの情報を得ていた。だが、中国側の追及に米国側は知らぬ存ぜぬを通した。これで外交ゲームは一気に米国有利に傾く」(同)

 中国は米国側の要求をむげに断れなくなった。これまで一切関与を否定していたサイバー攻撃に関して米国側に譲歩し、今後支援しないことで合意した裏には、令完成氏の存在が大きい。

 華やかな首脳会議の裏では、未曾有のインテリジェンス戦争が繰り広げられていた。米国が令完成氏という切り札を握る限り、中国政府は常にオバマ大統領の顔色を窺わなければならない。米国もしたたかである。

※SAPIO2016年1月号

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