ライフ

69歳の僧侶・内科医が余命3か月のいま、考えていること語る

普門院診療所内科医・西明寺住職の田中雅博氏

 田中雅博氏(69歳)は、奈良時代に建立された栃木県益子町の西明寺に生まれた。前住職の父親の勧めで東京慈恵医大に進学し、1974年に国立がんセンターに入職。前住職が亡くなった後、入学した大正大学では博士課程まで進んで7年間、仏教を学んだ。その間1983年に寺を継いだ。1990年に境内に緩和ケアも行なう普門院診療所を建設し、医師として、僧侶として患者に向き合ってきた。
 
 ところが、昨年10月にステージ4b(最も進んだステージ)のすい臓がんが発見され、手術をしたが、今度は肝臓への転移がみつかった。現在は抗がん剤治療を続けているが、効果は芳しくなく、余命わずかであることを自覚している。数多くの末期がん患者と向き合ってきて、自身の死も静かに見つめる彼が、いま、考えていることを語った。

 * * *
 40年ほど前、国立がんセンターに内科医として勤めていた頃は、担当した患者さんのほぼ全員が、治らない進行がんでした。外科医だと、手術して治る患者さんも診るのですが、内科医の私が担当した患者さんは、ほぼ全員が進行がん。当時はいまよりも治療法が限られていて、どうすることもできない、延命も難しい場合もあるという状況でしたが、いまでもがんの大部分は進行してしまうと治すのが難しくなります。

 そんな患者さんから「私は治りますか?」と質問されたらどう答えますか?

「残念ながら治すことはできません」と答えるしかない。がん性疼痛(がんに伴う痛み)を薬で抑えるなど、身体苦の緩和ケアで痛みを抑えることはできますが、痛みがなくなると最後に出てくるのが「死にたくない」「死ぬのが怖い」という苦しみです。

「私は死ぬのですか?」と多くの患者さんから聞かれました。しかし、医学ではどうにもならないことがある。「いのちの苦」の緩和ケアから人を救うことは、医者にはできない、科学にはできないのです。

 一般にがんが肝臓に転移した場合、黄疸が出ると余命約1か月です。私の場合、まだ黄疸は出ていませんが、検査結果を見て、各種統計と照らし合わせると、生きられるのはあと何か月かといったところでしょう。来年3月の誕生日を迎えられる確率は非常に小さい。

 先日、孫が生まれたんですよ。この子の成長をいつまで見られるのかと、つい考えてしまいます。生きていられるのなら、生きていたいと思いますし、命がなくなることに苦しみは感じます。しかし、人の死は思い通りにはなりません。

 たくさんの患者さんが亡くなっていくのを見ながら、「そのうち自分の番が来るだろう」と思っていました。だから、驚きもしないし、悲観もしない。「自分の番が来たか」と。むしろ「自分の番が来たらこうしよう」と考えてきたことがあるので、それを一つ一つ実行しているような感じです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
勝負強さは健在のDeNA筒香嘉智(時事通信フォト)
DeNA筒香嘉智、日本復帰で即大活躍のウラにチームメイトの“粋な計らい” 主砲・牧秀悟が音頭を取った「チャラい歓迎」
週刊ポスト
『虎に翼』の公式Xより
ドラマ通が選ぶ「最高の弁護士ドラマ」ランキング 圧倒的1位は『リーガル・ハイ』、キャラクターの濃さも話の密度も圧倒的
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
撮影前には清掃員に“弟子入り”。終了後には太鼓判を押されたという(時事通信フォト)
《役所広司主演『PERFECT DAYS』でも注目》渋谷区が開催する「公衆トイレツアー」が人気、“おもてなし文化の象徴”と見立て企画が始まる
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン