女性は昔の性のタブーなき時代に回帰したいという願望があるのではないでしょうか。男性は、もう戻れませんけどね。現代はそういう社会になってしまった。男の世界はもともと戦いに勝った者が王になるという社会でしたが、その戦い自体を否定されてしまった。オスとして、それはある種の退化でしょうね。
これから先、性表現の分野で新しい展開があるとすれば、男のヘアヌード解禁でしょうね。ホストが芸能人化して、女に身を売ることに対する抵抗がなくなりました。「君、これで脱がない?」って札束をどんと積まれたら、脱ぐ若い子はいるんじゃないですか。
そもそも女は全身で性的興奮を覚える生き物でした。その点、男は視覚で感じるでしょう。性行為の最中も目を開けていることが多い。ところが今は、女性が男性化してきて、女性も視覚で喜ぶようになってきました。
ただ、女向けの性表現の解放の先に、幸福な未来があるとは思わない方がいい。男どもがAVばかりを見てセックスをする気がなくなっちゃったことと同じ現象が、女の中でも起きる可能性があります。仮想現実はあくまで仮想ですから。そんなの、ちっとも幸福ではないと思いますよ。(談)
【プロフィール】橋本治(はしもとおさむ):1948年、東京生まれ。東京大学文学部国文科卒業後、小説、評論、戯曲、エッセイと幅広く活動。『古事記』『源氏物語』といった古典の現代語訳も多い。『宗教なんかこわくない!』で新潮学芸賞、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞を受賞。
※SAPIO2016年2月号