国際情報

ニカラグアで12年の獄中生活を送った日本人の告白(1/4)

グラナダの「雑居房」。右が服部重次氏

 日本から遠く1万キロ以上離れた中米の小国での「獄中生活」。そんな想像すらできないような過酷な環境に、12年もの間、身に覚えのない罪状で放り込まれた日本人男性がいた。再審請求中の男性が語る壮絶な体験談を4回にわたってレポートする。

 * * *
「雑居房の中を見回しても、日本人はおろかアジア人の姿さえありませんでした。ニカラグア人、コスタリカ人、キューバ人の犯罪者たちばかりです。私はたった一人のアジア人であり、日本人でした」

 記者の目の前に座る服部重次氏(67歳)は「身に覚えのない罪状」で、49歳から約12年間にわたって中米ニカラグアの獄中に幽閉されたのだと言う。

「最初に収監されたグラナダ刑務所は8つの雑居房を持ち、それぞれの房には約100人の囚人が収容されていました。簡単にいえば、広い部屋に50台の2段ベッドが並べられているという感じです。各々の雑居房には貯水槽と共同の肥溜めトイレが併設されており、ポリバケツに汲んだ水をトイレの中で浴びるのがシャワー代わりです。日々の暮らしは雑居房の中で完結してしまうので、週に一度の運動の時間以外は外に出ることはありません」

 食事は朝昼晩の三度、ガジョピント(豆入りの炊き込みご飯)が配給されるだけなので、すぐさま栄養失調になってしまう。

「肉や魚はおろかオカズや野菜の類も出ません。月に一度だけ、野鳥の頭とタマネギが一切れ入ったスープが出されるぐらいです。それに、配給されるガジョピントは茶碗に半分ぐらいの量で、すでに腐りかけている残飯のような代物です。ネズミの糞やハエが混ざっているのは当たり前で、それを選り分けて食べるので、口に入れられる量はわずか……。

 早朝の薄暗い中で、ゴキブリの卵と豆の見分けがつかず、噛んでから気づき、吐き出したことを思い出します。そのため、収監されてしばらくすると、私自身も栄養失調になりました。両手の爪がどんどん柔らかくなって、最後には縛ったビニール袋の結び目も解けないぐらいになってしまったのです」

 だが、服部氏と同じように雑居房に押し込められている他の多くの囚人たちには、そのような危機は訪れなかった。

「ほとんどの囚人は、刑務官の配る配給食には頼っていませんでした。ニカラグア人たちは月に二度の面会日に、塩や砂糖などの調味料から野菜、チキン、嗜好品の煙草まで差し入れしてもらい、必要に応じて、それらを囚人間で物々交換するというのが『刑務所の常識』でした。雑居房の天井に電極が飛び出している一角があって、その電極に電熱コンロを繋いで、フライパンで食事を作り、コーヒーを入れるわけです。

 もちろん、物々交換といっても、私たちの知る一般社会のように『契約』という概念があるわけではないので、常にそこには暴力の影がつきまといます。雑居房の中で権勢をふるっていたのは、いわゆる『プリズン・ギャング』と呼ばれる連中でした。彼らは看守を買収し、外の仲間からマリファナやコカインを密かに入手し、房の中で売り捌くのです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

逮捕された谷本容疑者と、事件直前の無断欠勤の証拠メッセージ(左・共同通信)
「(首絞め前科の)言いワケも『そんなことしてない』って…」“神戸市つきまとい刺殺”谷本将志容疑者の“ナゾの虚言グセ”《11年間勤めた会社の社長が証言》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“タダで行為できます”の海外インフルエンサー女性(26)が男性と「複数で絡み合って」…テレビ番組で過激シーン放送で物議《英・公共放送が制作》
NEWSポストセブン
ロス近郊アルカディアの豪
【FBIも捜査】乳幼児10人以上がみんな丸刈りにされ、スクワットを強制…子供22人が発見された「ロサンゼルスの豪邸」の“異様な実態”、代理出産利用し人身売買の疑いも
NEWSポストセブン
谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン