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異文化の非日常性を意識的に使う 村上春樹の紀行文

【書評】『ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集』村上春樹/文藝春秋/1782円

【評者】神山典士(ノンフィクション作家)

 昨年来、村上春樹の新作が何作か立て続けに出版されたので、喜んでいる読者も少なくないはずだ。

『職業としての小説家』、『雑文集』、『村上さんのところ』、そして『ラオスにいったい何があるというんですか?』。『村上さんの~』はインターネットの自分のサイトでのファンとの質疑をまとめたもの。あとの3本は、彼の作品の鉱脈としては最も読みやすいエッセイ集だ(もちろん長編や短編の小説が読みにくいというわけではないけれど、ぼくの周囲には結構「村上って難しい」的な食わず嫌いの人も少なくないので)。

 ことに『ラオス~』は、「紀行文」と銘打たれ全編「旅する村上」に貫かれている。正確に言えば、旅するだけでなく「異国で暮らす村上」の記録と、その回想も含まれる。実際、こんなにも異文化に入り浸って作品を書いている作家も珍しい。

 上下で430万部を売り上げた『ノルウェイの森』は、37歳の時にギリシャのミコノス島で書き始められたものだったし、『ダンス・ダンス・ダンス』はローマとロンドンで、『スプートニクの恋人』はハワイのカウアイ島で書かれたもの。日本で書いた作品はあるのか?と思うほどだ。

 デビュー作『風の歌を聴け』は、一度日本語で書かれたものを全編英語に書き直し、それを再度翻訳したというのも有名な話。異文化のもつ非日常性、「ここではないどこか」の魅力をこんなにも意識的、戦略的に使っている作家は希有だ。

 自称「遊牧民=ノマド」。つまり旅するプロなのだから、そういう人が書いた紀行文が面白くないはずがない。ただそのことを言いたかっただけなのですが。

※女性セブン2016年2月18日号

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