国際情報

サウジアラビアが原油の減産をしない理由 佐藤優氏解説

サウジアラビアの首都リヤドで建設中のジッダタワー

 中東の二大大国が激しい火花を散らしている。中東一の産油国として知られるサウジアラビアと、古代ペルシャ時代からの伝統を受け継ぎながら核問題を巡って米国と対立してきたイラン。そのイランが米国と雪解けを果たしたことを機に、中東のパワーバランスに異変が起きている。そして、影響は原油にも……。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が指摘する。

 * * *
 サウジはイランとの国交断絶を通して米国にもシグナルを送っている。米国は、イランの核開発問題で譲歩すれば、イランはIS(イスラム国)対策で協力するという単純な方程式を考えた。その結果、2015年7月14日に、オーストリアの首都ウイーンで、イランの核問題を巡る合意が米英仏露中独とイランの間で締結された。この合意は、事実上、イランの核開発を容認する内容だ。

 米国はウイーン合意の結果、ISとの戦いでイランとの共同戦線が構築されたと勘違いしている。イランは、核開発について、米国が譲歩しなくても、ISとの戦いでは、米国と共同戦線を組まざるを得なかった。なぜなら、ISの第一義的目標がシーア派の殲滅だったからだ。イランは自らの生き残りのために、ISと戦っているに過ぎない。

 この基本認識がオバマ政権にはできていない。核開発問題で米国が譲歩したことを、イランは、米国の善意ではなく、弱さを示すものであると受け止めた。そして、シリアのアサド政権への梃子入れを強化し、シリア北部を経由して、レバノンのシーア派民兵組織「ヒズボラ」への軍事支援を強化することに成功した。

 さらに、イエメンのフーシー派(シーア派)、バーレーンのシーア派に対する梃子入れを強めてサウジに対する包囲網を作ろうとした。このような状況に対して、サウジは米国にイランの脅威を強く訴えたが、米国は真剣に取り合わなかった。

 イランは、米国とサウジの間にすきま風が吹いていることを正確に認識し、サウジ内のシーア派を煽動して、サウジの王制の弱体化を画策し始めた。1月2日にサウジが、シーア派指導者のニムル師を処刑したのは、イランと米国に対して、「これ以上、事態を看過することはない」という姿勢を鮮明にするシグナルでもあった。しかし、米国はこのシグナルを読み取れていない。

 今後、中東の政治、軍事、経済の危機、さらにエネルギー危機もサウジが震源地となる可能性が高い。原油価格が国際的に低迷しているにもかかわらず、サウジは原油の減産をしない。それは、シェアの確保をサウジが重視しているからだ。サウジの財政危機が伝えられているが、サウジは人口が少なく、原油価格が1バレルあたり30~40米ドルの間で推移しても、国家が破綻することはない。

トピックス

騒動から2ヶ月が経ったが…(時事通信フォト)
《正直、ショックだよ》国分太一のコンプラ違反でTOKIO解散に長瀬智也が漏らしていたリアルな“本音”
NEWSポストセブン
谷本容疑者(35)の地元を取材すると、ある暗い過去があることがわかった(共同通信)
「小学生時代は不登校気味」「1人でエアガンをバンバン撃っていた」“異常な思考”はいつ芽生えたのか…谷本将志容疑者の少年時代とは【神戸市・24歳女性刺殺】
NEWSポストセブン
ロシアで勾留中に死亡したウクライナ人フリージャーナリスト、ビクトリア・ロシチナさん(Facebook /時事通信フォト)
脳、眼球、咽頭が摘出、体重は20キロ台…“激しい拷問”受けたウクライナ人女性記者の葬儀を覆った“深い悲しみと怒り”「大行列ができ軍人が『ビクトリアに栄光あれ!』と…」
NEWSポストセブン
大谷の「二刀流登板日」に私服で観戦した真美子さん(共同通信)
「私服姿の真美子さんが駆けつけて…」大谷翔平が妻を招いた「二刀流登板日」、インタビューに「今がキャリアの頂上」と語った“覚悟と焦燥”
NEWSポストセブン
V-22オスプレイ
《戦後80年・自衛隊の現在地をフォトレポート》中国軍の脅威に対抗する「南西シフト」の最新装備 機動的な装輪車、射程が伸びた長距離ミサイル
週刊ポスト
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚を発表した(左・Instagramより)
《お腹にそっと手を当てて》ひとり娘の趣里は区役所を訪れ…背中を押す水谷豊・伊藤蘭、育んできた3人家族の「絆」
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
《前科は懲役2年6か月執行猶予5年》「ストーカーだけでなく盗撮も…」「5回オートロックすり抜け」公判でも“相当悪質”と指摘された谷本将志容疑者の“首締め告白事件”の内幕
NEWSポストセブン
硬式野球部監督の退任が発表された広陵高校・中井哲之氏
【広陵野球部・暴力問題で被害者父が告白】中井監督の退任後も「学校から連絡なし」…ほとぼり冷めたら復帰する可能性も 学校側は「警察の捜査に誠実に対応中」と回答
NEWSポストセブン
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
NEWSポストセブン
Benjamin パクチー(Xより)
「鎌倉でぷりぷりたんす」観光名所で胸部を露出するアイドルのSNSが物議…運営は「ファッションの認識」と説明、鎌倉市は「周囲へのご配慮をお願いいたします」
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“タダで行為できます”の海外インフルエンサー女性(26)が男性と「複数で絡み合って」…テレビ番組で過激シーン放送で物議《英・公共放送が制作》
NEWSポストセブン
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン