そういう意味では冒頭で紹介したホッツ氏もまた天才の1人である。学歴はないが(ロチェスター工科大学中退)、ハッカー出身という履歴は実は高く評価される。ハッカーはしばしば犯罪絡みのマイナスイメージを持たれがちだが、その本質は、強大な権力を持つエスタブリッシュメントに1人で立ち向かって倒すことにある。それをユーザー本位の新ビジネスでやれば、既存の大企業やシステムをひっくり返せるのだ。
ただし、それは必然的に孤独な闘いになる。「出る杭は打たれる」の諺(ことわざ)通り、皆に批判もされる。それでも自分で地図を描いて道なき道を切り開いていかねば、世の中は変革できない。
また、いったん成功すると、たいがい「出た杭」は引っ込み、目線が下がる。政府の諮問会議のメンバーになったり、徒党を組んだり、メディアや銀行にちやほやされたりして、現状に安住してしまうからだ。株式を新規上場した途端に失速する経営者も少なくない。だが、天才は孤独でなくてはならない。他を寄せつけない高みに立って闘いを続けていかなければ、世界を変えることはできない。
しかし今は、ベン・ホロウィッツやマーク・アンドリーセンのようなかつての起業者が投資家に回っているので、有望な「出る杭」を見つけるのも、育てるのも早い。銀行や大企業、ましてや国家ファンドなどは出る幕がないのだ。
幸い、これまで“ベンチャー後進国”だった日本でも、最近ようやく10代・20代の起業家が登場して注目を集めている。その中からホッツ氏やマスク氏やザッカーバーグ氏のような天才が出現することを期待し、目を皿のようにして出る杭を探す今日この頃である。
※週刊ポスト2016年2月19日号