しばらく誰も手を挙げない。やがて、一人がおずおずと手を挙げた。オバマ大統領は黒人系ではなく、白人系ではないでしょうか。

 その通りだね。正確には黒人系であると同時に白人系でもあるのだ。彼は白人・黒人の混血だからね。彼がもしケニアで大統領になったら、ケニア初の白人系大統領と呼ばれるだろう。アメリカでオバマ氏が黒人系と呼ばれるのは、アメリカでは大統領は白人が当然だという通念があるからだ。だが、ケニアから見れば逆になるのだ。アメリカ標準が世界標準ではないんだ。文化の相対性を学ぶことが比較文化論の眼目なのだよ。

 今、私はオバマ氏は「混血」だと言った。しかし、テレビでも新聞でも「ハーフ」と言い換えている。「ダブル」という再言い換えさえ進んでいる。こんなところにもアメリカ標準、英語標準が表われているんだ。「混血」は忌まわしい言葉だけど「ハーフ」「ダブル」は美しい言葉だなんて、それこそ日本語という文化に対する差別じゃないか。

 現実に、優勢な言語、劣勢な言語はある。私も便宜的にオバマ氏は黒人系大統領と言うよ。でも、それはアメリカ標準にすぎないことは自覚していなければならない。我々は、異文化についても自国文化についても無知なんだよ。

 以上、本日の講義終わり。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。京都精華大学マンガ学部客員教授、日本マンガ学会理事。著書に『バカにつける薬』など。

※週刊ポスト2016年3月11日号

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