ライフ

【書評】週刊誌20年ぶんの面白話は現在の日本への警鐘

【書評】『B面昭和史 1926-1945』半藤一利・著/平凡社/1800円+税 装丁/菊地信義

【評者】嵐山光三郎(作家)

 歴史探偵半藤亭一利丈が名調子で唸る昭和史B面裏話大成。元号は光文? 流行歌、落語、やくざ節、大相撲、「わしゃかなわんよう」、マッチ箱の爆弾、説教強盗、銀座の柳、桃色ストと防空演習、パパ・ママ論争、阿部定事件、「あゝそれなのに」、竹槍事件などなど、週刊誌20年ぶんの面白話がコレデモカ!と出てくる。

「細部にこそ神が宿る」というリアルな話ばかりで、そのひとつが芥川賞である。昭和12年下半期の芥川賞は火野葦平の『糞尿譚』ときまったが、当人は応召されて出征中だった。文藝春秋社の菊池寛は、上海へ渡ることになっていた小林秀雄に頼んで、芥川賞を伝達することにした。幸い火野の所属する部隊は杭州にいた。

 早いほうがいいと言うので、すぐに芥川賞授与式をやり、S部隊長、M部隊長、S少尉などが列席し、部隊全部が、本部の中庭に整列した。「気をつけ、注目」と号令をかけられてドキンとし、思い切って号令をかけるような挨拶をした。つづいて火野伍長、S部隊長の挨拶があって終了した。

 小林秀雄は「これからも、日本文学のために、大いに身体に気をつけて、すぐれた作品を書いていただきたい」と挨拶をした。授賞式のあと祝賀宴となったとき、酔った下士官が刀を抜いて小林にむかい、「兵隊の身体は陛下と祖国にささげたものだ。文学のために身体に気をつけろとは何ということだ。非国民め」とからんだ。

 芥川賞作家となった火野葦平は、これ以後、徐州攻略作戦のルポルタージュを命じられ、それが『麦と兵隊』である。当局の指示もあって「改造」に掲載され、同社から単行本となり、120万部のベストセラーになった。トンビに油揚をさらわれた菊池寛はこの作品を認めようとしなかった。

 というような裏話がゴロゴロ出てくる。軍歌と万歳と言論統制で戦争に突入して、「一億一心」というスローガンが歓声をあげた時代は、いまに似ている。昭和B面史を語りつつ、現在の日本への警鐘がこめられている。

※週刊ポスト2016年3月18日号

関連記事

トピックス

報道陣の問いかけには無言を貫いた水原被告(時事通信フォト)
《2021年に悪事が集中》水原一平「大谷翔平が大幅昇給したタイミングで“闇堕ち”」の新疑惑 エンゼルス入団当初から狙っていた「相棒のドル箱口座」
NEWSポストセブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
雅子さまは免許証の更新を続けられてきたという(5月、栃木県。写真/JMPA)
【天皇ご一家のご静養】雅子さま、30年以上前の外務省時代に購入された愛車「カローラII」に天皇陛下と愛子さまを乗せてドライブ 普段は皇居内で管理
女性セブン
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
稽古まわし姿で土俵に上がる宮城野親方(時事通信フォト)
尾車親方の“電撃退職”で“元横綱・白鵬”宮城野親方の早期復帰が浮上 稽古まわし姿で土俵に立ち続けるその心中は
週刊ポスト
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト
東京駅17番ホームで「Zポーズ」で出発を宣言する“百田車掌”。隣のホームには、「目撃すると幸運が訪れる」という「ドクターイエロー」が停車。1か月に3回だけしか走行しないため、貴重な偶然に百田も大興奮!
「エビ反りジャンプをしてきてよかった」ももクロ・百田夏菜子、東海道新幹線の貸切車両『かっぱえびせん号』特別車掌に任命される
女性セブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
高橋一生と飯豊まりえ
《17歳差ゴールイン》高橋一生、飯豊まりえが結婚 「結婚願望ない」説を乗り越えた“特別な関係”
NEWSポストセブン
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
NEWSポストセブン