国内

連載【大川小の今】最終回 生還者の夢は消防士

大川小学校の生存者・只野哲也さんの夢は消防士

 震災を忘れ去ったかのような喧騒と、遅々として真相解明が進まない目の前の現実は、彼の目にどう映っているのだろうか──。2011年3月11日の津波で、全校児童108人のうち74人が犠牲になった宮城県石巻市の大川小学校。只野哲也さん(16才)はその生存者だ。悲しみの癒えぬ5年の歳月を、長く大川小について取材を続けるジャーナリストの加藤順子さんと池上正樹がリポートする。(撮影:加藤順子)
【集中連載第4回/全4回】

 * * *
 この5年間、生還者としての体験を背負い校舎に対する思いや災害への備えを必死に語ってきた哲也さん。物怖じせず意見を述べる姿には強い覚悟が感じとれるが、時折こんな繊細な心の内も見せる。

「メンタル、めちゃめちゃ弱いです。取材では『何を言われても未来の命守れるなら伝えていきます』なんて簡単に言えるけど、文句を言われたり、亡くなった同級生の親が自分にあまりいい印象を持っていないと聞いたりしたときも落ち込んだし…」(哲也さん、以下「」内同じ)

 今熱中している部活動の柔道の好きなところも、試合で勝つことや技を身につける楽しさ以上に、礼を身につけることや、柔道家に共通する心の強さだという。

 素の自分だと感じるのは、柔道をしている時と家でリラックスしている時。先生やマスコミなど大人との会話では自分をちょっと作っているようにも感じている。

 しかしそれも、大川に戻れば昔の自分に戻った気がするという。

「当初は、校舎には正直、近寄りがたかったです。やっとの思いで大川を脱出した後、最初に(対岸の)北上川町側から大川小を見たときの異臭は今も忘れないです。ガソリンといろんな腐った物をごちゃ混ぜにしたような。今もたまにあの時と同じようなにおいがするような気がするんですよ。津波が家を壊してきて、それに追っかけられてのまれる瞬間だとかを、あの時、鮮明に思い出しました」

 そんな記憶も少しずつ薄れてきて、校舎へ来てもつらく感じることはなくなってきた。反対に、教室で亡くなった同級生たちに些細なことでも語りかければ、気持ちが楽になるようになったのだ。

 震災前は3世帯6人だった家族は、父と祖母との3人暮らしになった。「今は反抗期かな?」と笑いながらも、自分と向き合おうと努力する父親の背中を見続けている。

「仕事が忙しい中でも、休みの日はどこか行くか? とか、映画見に行くか? とか、気を使ってくれる。仕事の帰りに時間があれば、今日迎えにいくからって、忙しいながらもおれとの時間を作ろうとしてくれていて、すごいなと思う。お金稼いでいるのは親父だけだから感謝しているし、時間を作って大川に行って語り部もしていて、よく体力が持つなって思いますね」

 哲也さんの夢は最近、警察官から、消防士に変わった。

「どっちかっていうと自分が経験したことを防災に役立てたいから、災害から人を守る消防士になりたいな。今はそこを目標にして日々の生活を送ろうとしています」

【集中連載第4回/全4回】

※女性セブン2016年3月24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《スクショがない…》田中圭と永野芽郁、不倫の“決定的証拠”となるはずのLINE画像が公開されない理由
NEWSポストセブン
多忙の中、子育てに向き合っている城島
《幸せ姿》TOKIO城島茂(54)が街中で見せたリーダーでも社長でもない“パパとしての顔”と、自宅で「嫁」「姑」と立ち向かう“困難”
NEWSポストセブン
小室圭さんの“イクメン化”を後押しする職場環境とは…?
《眞子さんのゆったりすぎるコートにマタニティ説浮上》小室圭さんの“イクメン”化待ったなし 勤務先の育休制度は「アメリカでは破格の待遇」
NEWSポストセブン
女性アイドルグループ・道玄坂69
女性アイドルグループ「道玄坂69」がメンバーの性被害を告発 “薬物のようなものを使用”加害者とされる有名ナンパ師が反論
NEWSポストセブン
遺体には電気ショックによる骨折、擦り傷などもみられた(Instagramより現在は削除済み)
《ロシア勾留中に死亡》「脳や眼球が摘出されていた」「電気ショックの火傷も…」行方不明のウクライナ女性記者(27)、返還された遺体に“激しい拷問の痕”
NEWSポストセブン
当時のスイカ頭とテンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《“テンテン”のイメージが強すぎて…》キョンシー映画『幽幻道士』で一世風靡した天才子役の苦悩、女優復帰に立ちはだかった“かつての自分”と決別した理由「テンテン改名に未練はありません」
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《ヤクザの“ドン”の葬儀》六代目山口組・司忍組長や「分裂抗争キーマン」ら大物ヤクザが稲川会・清田総裁の弔問に…「暴対法下の組葬のリアル」
NEWSポストセブン
1970~1990年代にかけてワイドショーで活躍した東海林さんは、御年90歳
《主人じゃなかったら“リポーターの東海林のり子”はいなかった》7年前に看取った夫「定年後に患ったアルコール依存症の闘病生活」子どものお弁当作りや家事を支えてくれて
NEWSポストセブン
テンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《キョンシーブーム『幽幻道士』美少女子役テンテンの現在》7歳で挑んだ「チビクロとのキスシーン」の本音、キョンシーの“棺”が寝床だった過酷撮影
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚することがわかった
女優・趣里の結婚相手は“結婚詐欺疑惑”BE:FIRST三山凌輝、父の水谷豊が娘に求める「恋愛のかたち」
NEWSポストセブン
タレントで医師の西川史子。SNSは1年3ヶ月間更新されていない(写真は2009年)
《脳出血で活動休止中・西川史子の現在》昨年末に「1億円マンション売却」、勤務先クリニックは休職、SNS投稿はストップ…復帰を目指して万全の体制でリハビリ
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン