「世の中に天才という人がいますが、芥川さんがまさにそうでした。翻訳劇の読書量も、蘊蓄の知識量も凄くて、演技指導してくれても知らないことばかり。芝居の面白さ、舞台の激しさを教えてくれました。舞台ではできないことは何もない、と。
文学座が分裂する時は入院されていたのですが、『私はどうしてもついていきたい』と相談しました。芥川さんは『仲谷昇君に相談しなさい』と言ったんですが、僕は『もう決まってます。一生ついていきます』って。
それを今も引きずってます。野田秀樹には『いまどき、劇団なんて古いですよ』と言われるんだけど、先輩たちがせっかく作ってきた劇団を俺の代で潰すわけにはいかないから。
芥川さんはシェイクスピアの主役をやっては体を壊していましたが、共演した際に『なんで俺の所に主役が来るんだ。ヅメ、主役は大変だぞ』としみじみとおっしゃっていましたね。
その大変さは、やってみると分かるんです。リーディングアクターなので、芝居の流れを一人で運んでいかなくてはならない。しかも、周りを引き立てながら作品を作っていく。その重みと緊張感は、『頼むから助けてくれ』と言いたくなります。
台本を読む時、内容や役に感じることって初見の時の方が当たってるんですよ。でも、稽古に入ると自分の役に入ってしまって、最初の印象や理解と外れるということが往々にしてあるのね。主役はそれだとダメなので、最後の最後まで役者以外の目が残っている気がします」
撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年3月18日号