奥澤:認知症でも、人間性は取り戻せる。あとは世の中です。家族だけじゃなくて、近所とか町の人が見守る。そういう社会になってほしい。
愛知県の鉄道事故も、認知症の男の人は駅の改札を通って電車に乗っているんでしょう。誰かがちょっと声を掛けられれば防げたかもしれない。声を掛け合える社会にならないといかんと思いますよ。
園田:難しいのは、今回、私は名前も顔も伏せて取材をお受けしましたが、私の勤務先にしても家族にしても、認知症だと公表することは控えてほしいという立場です。
やっぱり認知症に対する世間の理解はまだそこまで浸透していない。もし職場で事故があったりしたら「あの人が変な判断をしたからだ」と見られかねない。そういう見方があるのも事実です。
* * *
そうした認知症へのイメージに対し、当事者の立場から「過剰に危険視して監視や制止をしないで」と訴えているのが、BLG理事長の前田隆行氏も参加する「日本認知症ワーキンググループ」だ。
2014年に発足し、2月には5項目にわたる「本人からの提案」を打ち出した。前田氏が言う。
「認知症の当事者たちの声をもっと政策に反映させなくてはいけません。だからこそ、本人たちが生活している中での思いをもっと表現する場があっていい」
奥澤さんは取材の最後にこうつぶやいた。
「みんないつかは認知症になる。そういう時代です。でも、まだみんな、どこか他人事なんだよな」
当事者たちの声は明るかった。そして重くもあった。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号