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認知症患者 「みんな他人事で世間の理解は浸透していない」

昼食後のカラオケを楽しむ通所者たち

 認知症の問題は、家族の介護負担に注目が集まる一方、置き去りにされてきたのが、意思疎通は難しいと思われがちな「本人」の気持ちではなかったか。そこで本誌は、前代未聞の認知症当事者による座談会を開催した。

 参加者は、民家を改装したデイサービス施設「NPO町田市つながりの開 DAYS BLG!(以下、BLG)」(東京都町田市)の通所者。

 市内で妻と2人暮らしの奥澤慎一さん(74)、建設会社勤務だった園田士郎さん(仮名、62)、神奈川県在住の片岡信之さん(仮名、64)、大手電機メーカーの設計担当だった鳥飼昭嘉さん(72)の4人に話を聞いた。

──3月1日に下された最高裁判決が注目を集めました。2007年に愛知県で認知症男性(91、当時)が徘徊中に列車にはねられた事故で、鉄道会社が列車遅延の損害の賠償を男性の妻と長男に求めていた裁判です。事故を防ぐために認知症の人を閉じ込めることが許されるのか、という議論も起きました。

奥澤:社会から隔絶した場所に閉じ込められるのは、本人にとって地獄です。私がそうでした。認知症と診断されて、妻は私を24時間365日の監視体制下に置きました。私1人では家から一歩も出さなかった。

 定年前の私はほとんど家を顧みなかったから、妻と話すことなんてなかったんですね。それが四六時中、顔を突き合わせていると、互いにあら探しばかり。普通のデイサービスも行きましたが、やりたくもないことをやらされる施設でつらいばかりだった。

 それでも家族の休息のために自分を殺してしばらく通っていましたが、次第に人と話す言葉も意欲も失いました。

 3年前、その妻がBLGを見つけてくれて、もう一度社会や仲間とつながれるようになり、希望が差した。今では妻に感謝、感謝。

鳥飼:そう、症状は改善できますよね。僕は「後ろ歩き」がいいと聞いて、公園でやっていますよ。

片岡:すごいねそれは。

鳥飼:それどころか「後ろ走り」もやります。

──危なくないんですか?

鳥飼:危ないですよ! 一度転んで膝の筋を切っちゃったんだから(一同爆笑)。

 怖くてしばらく後ろ向きには歩くこともできなくなっちゃった。走ったのは、失敗でした(と頭をかく)。

園田:まあ運転しない代わりに歩くのはいいですよね。歩きながらだと必ず何か考えるから、脳にもいい。

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