【東京大学客員教授の石倉昇九段(61)】
「アルファ碁は非常に強かった。従来のコンピュータは接近戦が強かったのですが、アルファ碁は大局観があることが素晴らしい。
これは囲碁界にとってはプラスです。新しい考え方が生まれ、これまでの常識や定説が覆っていきます。碁の考え方が向上するでしょう。
故・藤沢秀行名誉棋聖が「碁の神様が“100”わかっているとすると、自分がわかっているのは“6”」というほど、プロがわかっている世界はまだまだ少しだけ。それだけ囲碁は広いのです。
李九段は本来の力が全然出ていません。プレッシャーがすごかったことでしょう。相手が目の前にいるようでいない。これはすごいマイナスなこと。李九段がふつうの心境・状況での対局を見たかったですね。
【日本棋院顧問・元理事長の大竹英雄名誉碁聖(73)】
「みなさん、アルファ碁の強さにびっくりされたことでしょう。私の予想より10~20年早く強くなりました。我々はコンピュータから学ぶことが必要です。
世の中にはアルファ碁を作ってくださるすてきな方がいらっしゃるなんて、感心しています。アルファ碁を作ってくださった方々に、心から尊敬と敬意を表します。
みなさんには碁盤の持っている広さを感じていただけたことでしょう。アルファ碁には、人間の雰囲気が感じられるのが嬉しいことです。
ただ、4局目。最後のほうで突然、品のない手を打ち出しました。機械といえども、品が大事。そこのところを研究者の皆様にも考えていただきたい。人間も、コンピュータも、碁盤への挑戦ですから。
囲碁を通じての世界平和を。これが大切。世界中の人が仲良くできるよう、世界平和に囲碁が役立てるよう、囲碁を見直していただければこんな嬉しいことはありません」
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アルファ碁の出現をほとんどの棋士が歓迎し、ネガティブに捉える声はまったく聞こえてこなかった。強い棋士がひとり誕生した。みな、そんな捉え方をしているようだ。
アルファ碁は棋士の発想にない手、常識外の手を打ち、勝った。「悪そう」に見えた手も、局面が進むと悪い手ではなくなる。
「悪い手」と「悪そうな手」には、大きな差があること。これまでの定石や常識を疑い、さらに研究しなければならないこと。それらはアルファ碁が世に出てきたことで、棋士が感じたことだ。まだ研究する材料があり、まだ強くなれる。
碁はまだまだ発展できる――。アルファ碁が囲碁の明るい未来を感じさせてくれたのだ。
●文/内藤由起子(囲碁ライター)