3つ目は仏教の教義と戒律である。仏教には守るべき基本的な規定である「五戒」があり、その中の「不邪淫戒」(=姦淫をしてはならない)が禁欲主義の根拠となっている。
出家僧であれば「不邪淫戒」は当然守るべき戒であり、寺院や聖域への女性の立ち入りを禁じることは自然の成り行きで、出家という出世間(*3)の行為に付随する当然の帰結であった。もともと仏教には女人罪業観という女性劣位の思想がある。そのため男女の双方に平等に課せられたはずの「不邪淫戒」が女性を排除する方向に突出してしまった。
こうした要素が相互に、複雑に影響し合い、女性だけが入れない境界である女人結界が生まれる。「結界」は、元々は女人に限らず、聖域空間への立ち入りを禁ずる規定であったが、次第に女性排除の様相を帯びる「禁制」へと展開した。
【プロフィール】すずき・まさたか:1949年東京都生まれ。文学博士。文化人類学者。民俗宗教、祭祀芸能の比較研究、民俗社会を中心とする日本文化論が専門。『女人禁制』(吉川弘文館刊)、『山岳信仰』(中公新書)など著書多数。
※SAPIO2016年4月号