しかし本書の予測する日本は他の側面では人間らしさの少ない不快な社会とも思えてしまう。物質的な快適さだけなら、その日本はパラダイスかもしれない。だが私が最近の自著『日本人が気付かない世界一素晴らしい国・日本』でも述べたように、日本が素晴らしいのは経済アニマルの国ではなく、豊かな人間関係が技術の進歩の基礎にも存在する国だからだ。
『日本復興』では、そうした日本の特別な文化や精神はほぼ無視されている。日本の文化は普遍的、経済的に効率の高い言動を取らない場合の弁解のように位置づけられる。一例として日本の歌舞伎は「社会の調和を口実とする偽善の象徴」とされるが、私には社会の調和とそれを支える人間関係こそが日本人の賞賛すべき倫理観の基盤に思える。
よき人生を目指す日本人独特の倫理感覚の前提となる深く人間的な次元がなければ、日本は高度技術と経済成長と功利的な物質主義だけの国になってしまう。私もプレストウィッツ氏と同じように日本が将来、超重要な国際的存在になると思う。だがそれは氏の論拠とは違って日本独特の文化、道義、そして人間的な伝統という特徴があるからこそ、そうなると考える。
※SAPIO2016年5月号