アメリカの人権団体は、これを繰り返し批難した。そのたびにカストロは、我がキューバに政治犯などいないと反論した。これに対して、アメリカの人権団体は、キューバでは政治犯は精神病院へ強制入院させられている、と再批難した。カストロは、入院しているのはあくまでも精神病患者であると、再反論した。
こんな批難・反論が続くうちに、とうとうカストロが切れた。よし、分かった、じゃあ、お前らが言う通り“政治犯”を自由と人権の国アメリカへ解放してやろう。
そして“政治犯”を百人も二百人も乗せた船をフロリダへ送った。アメリカでは人権団体が勝利を誇り、港には歓迎のアーチが飾られた。やがて船が桟橋に着き、歓声が挙がる中、続々と“政治犯”が降りて来た。
その姿を見た瞬間、人権団体は、これはマズったなと思ったが、もう遅い。祝福の声に囲まれて“政治犯”たちは自由の国の中に放たれたのである。まさかアメリカでも精神病院へ再投獄するわけにはいかないからである。
私はカストロが「切れた」のは絶対に演技だったと思っている。
■くれ・ともふさ/1946年生まれ。京都精華大学マンガ学部客員教授、日本マンガ学会理事。著書に『バカにつける薬』など。
※週刊ポスト2016年4月15日号