米国と国交回復したキューバ
世の中にはおかしなことが様々なことがあるが、評論家の呉智英氏が最近おかしいと感じたことは何か。呉氏は、アメリカとキューバの外交について論じる。
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三月二十一日、キューバを訪問したオバマ米大統領がラウル・カストロ国家評議会議長と会談した。ラウル・カストロ氏は、フィデル・カストロ前議長の弟である。会談中、オバマ氏がキューバにおける政治犯の人権問題に言及すると、カストロ氏は色を成して「政治犯だって? キューバにそんなものがいると言うならリストを出してくれ。そうしたら今夜にも全員釈放する」と反撃した。
私はこのニュースを読んで、ああ、弟カストロはやっぱり兄カストロに一ランク落ちるな、と思った。ちょっと下手なのである。
私の学生時代、一九六〇年代後半、キューバの社会主義に好感を持つ友人が多かった。当時、ソ連の惨状はよく知られていたが、キューバには南国特有の大らかさが感じられ、また指導者も魅力的だった。その指導者とは、兄カストロとゲバラである。
ゲバラは既に一九六七年ボリビアでゲリラ活動中に逮捕され銃殺刑に処せられていた。こうした経歴もロマンチックで、ゲバラ人気は高かった。私より十歳年長で、しかも保守系の政治家である亀井静香氏も、ゲバラ崇拝者として知られる。
しかし、私はゲバラに惹かれることはなかった。ロマンチックはいいが、政治的力量がないように思われたからである。一方のカストロにはそれがあるような気がした。その政治がいい政治か悪い政治かは別にしてである。換言すれば、味方にしたい人物、敵に回したくない人物、という評価である。
私のこの直感は、その十数年後に当たった。一九八〇年前後のことだったと思う。アメリカではしきりに人権外交が称えられた。その一環として、キューバの政治犯への人権抑圧がしばしば批判された。キューバもまた、ソ連ほどではないが、反体制知識人を逮捕監禁していたのである。