さいとうは『ゴルゴ13』の連載を48年間一度も休んだことがない。これは漫画に限らず、広く物書きの世界でも驚異的なことだ。仕事なら納品の約束を守るのは当たり前だ。一般の職業でその約束を破れば違約金を取られるではないか……。かつて広くそんな風に「偉そうに」啖呵を切ってしまったため、どんなときでも休めなくなり、糖尿病になったときでも病院に机を持ち込み、点滴したまま退院して仕事をする羽目になった、と苦笑いする。
「この世界に入ってくる人は、漫画は芸術だ、自分は天才だと思っているんです。だから、私が入った頃にも、天才の一種のステータスとして締切から逃げ、連載を休む人がよくいましたよ」
では、さいとうは、自分のことを天才だと思わないのか。こう問うと、「とんでもない、とんでもない」と即座に強く首を振った。
「自分の感性を作品という形に変えて、世の中で受けるのが天才。受けないのはただのカス。それに対して、いかにして世の中に受けるかを一生懸命考えるのが職人。自分は職人だという意識でやってきたことが、ここまで長続きした一番大きな理由ですよ」
■撮影/樂滿直城 ■取材・文/鈴木洋史
※週刊ポスト2016年4月29日号