それならO記者が会見の場で語った実態はウソなのか。O記者に電話したが、「答えられないので広報部を通してほしい」というのみ。朝日はこれに関しても「そもそも『押し紙』はありません」との回答を繰り返した。

 事ここに至っても新聞業界ぐるみで、ひた隠しにしているとしか思えない。

 そうした自浄能力を失った姿勢は、ホリエモンこと堀江貴文氏が、〈てかこれ完全に詐欺やん。ぜんぜん問題にならないのはそれだけマスコミの力が強いからだけど弱くなったらヤバイよね〉(4月11日)とツイートしたように、参院選を前にメディア統制に躍起となっている安倍政権に絶好の攻撃材料を与えかねない。

 実は、安倍首相は押し紙問題が新聞社のアキレス腱であることを熟知している。官房長官時代、参院予算委員会でこう答弁していることからもわかる(2006年3月)。

「私の秘書のところにもある新聞社が1か月間、2か月間タダで取ってもらいたいと、こういうことを言ってきたわけでありまして、私の秘書が取るわけのない新聞社が言ってきたわけでありまして、当然断わったそうでありますが。

 また、いわゆる押し紙も禁止されているのに、いわゆる押し紙的な行為が横行しているのではないかと言う人もいるわけでありまして、実態としてはそういうところもしっかりとちゃんと見ていく必要もあるんだろうと」

 それでも当時メスを入れることができなかったのは、言論機関としての新聞社の力を警戒していたからに他ならない。

 しかし、権力に弱みを握られた新聞が権力に立ち向かえるはずがない。公正取引委員会は総理大臣直属の行政委員会だ。朝日が押し紙問題という禁断のパンドラの箱を開けたことで、いまや新聞は安倍政権に完全に生殺与奪の権を握られたのである。

※週刊ポスト2016年4月29日号

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