そのためにも「出版業界」という独特な世界を描く時のポイントだけはおさえていく必要があるのだろう。たとえば、この朝ドラが始まった冒頭、出版社のシーンが展開された。編集部員の一人が“先生に電話で原稿を依頼したが断られた”と言ったのでびっくり。50年も前の出版社で、そんな仕事の仕方が日常茶飯事だったとは信じられない。
作家に執筆を依頼する際は、当然のことだが編集者が直接出向いてテーマや締め切りについて話をするのが、当時の常識だったろう。
モデルである『暮らしの手帖』は、特にこだわりを持った個性的な雑誌だった。企業から広告を取らず自らの手で商品テストを繰り返す。徹底した批評性、商業主義に流れないスタンスが社会に強いインパクトを与えた。厳しさ厳密さと同時に、誌面を飾るイラストは美しく、デザイン・美意識に満ちた誌面作りをしていた。
つまり、一言でいえば「丁寧な暮らしを作りあげるこだわりもった」雑誌だった。その編集部が作家に執筆依頼をするシーンだ。丁寧に作りすぎても誰も怒らない。
『とと姉ちゃん』の時代背景は昭和~敗戦~高度成長へ。時代の大きな変わり目はただでさえ、波乱に満ちている。だから、作ったような出来事を無理に挿入し騒ぎを作らなくても、時代の波に影響を受けながら生きる家族を丁寧に細やかに描き出せば、ドラマは生まれてくる。『あさが来た』が大好評を得たのも、そうした成熟した制作姿勢にブレがなかったからではないだろうか?
『とと姉ちゃん』の今後の展開を見守りたい。