女芸人・赤プルはかつて「赤いプルトニウム」を名乗っていた。だが、福島第一原発事故により、改名した。さすがにこの名前では仕事で起用しづらいといった事情に加え、自身の茨城の実家も被災したことが理由だろう。
自発的に変えるのならいいのだが、当時彼女の芸名に対する「不謹慎です!」指摘はネットに多数存在していた。
挙句の果てにはこうした風潮は、埼玉県吉川市の中学で卒業祝いの赤飯を3月11日の給食に出すと決まったら、「震災のあった日に非常識だ」と言い出す教師が登場したり、篠田麻里子に「自分の誕生日が3月11日であることに、申し訳ない気持ちがありました」(朝日新聞の取材)と言わせるという結果をもたらした。
スルーしてもいいような余計なことに気付き、発信することは、東京五輪エンブレム騒動の時にも発生した。佐野研二郎氏の「パクリ」を発見しようと血眼になってネット上を探し続ける人々。佐野氏がデザインした東山動植物園のロゴとコスタリカの博物館のロゴが似ているとの指摘はやり過ぎだ。結局同園は事実関係を調査することに。
こうした「私こそ気付いた!」合戦は他人に余計な仕事を増やすとともに、本人にも非生産的な時間を過ごさせる。まさに無駄の極致である。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2016年5月6・13日号