たとえば、日本でウーバーのタクシーを利用した乗客がスマホ決済で運賃を支払うと、その瞬間にサイバー上でオランダ本社の収入になる。運転手に対してもオランダ本社から運賃の80%が取り分として支払われる。利益はオランダ本社ではなくバーミューダに蓄えられ、アメリカのウーバー・テクノロジーズ本社はわずかなロイヤリティしか受け取らない仕掛けになっている。ウーバーは国別・地域別の現地法人や代理店といった従来型の組織は持っていないのである。
これはスマホセントリック(スマートフォン中心)のエコシステム(生態系)を使うからできることだ。スマホは国別ではなく、世界中どこへ行ってもOS(基本ソフト)は実質的にアップルのiOSかグーグルのアンドロイドしかない。つまり、スマホベースの全世界共通プラットフォームが出来上がっているわけで、それを活用すれば、ウーバーのように生まれた時から都市別の世界展開ができるのだ。
今後の企業に必要なのは、改革や変革ではない。ましてや日本企業お得意のアナログ的な「カイゼン」でもない。今までのビジネスの延長線上で1を1.2とか1.3にするよりも、0から1を生み出したほうが手っ取り早くて多くの果実を得られるのだ。
その時に重要なのは、すべて自社でやろうとしないことである。具体的に言えば、時間をかけない、カネをかけない、自前の人手をかけないことである。今はクラウドに何でもあり、ビジネスシステムのあらゆるフェーズに“お助けマン”がいるので、そういうものを自分で構築する必要は全くないのである。
たとえば家電製品の場合は、プリント基板の回路設計図面をはじめ、ほとんどのものはネットからダウンロードできてしまう。だから今は技術者が1人で家電製品を作って販売する「ひとり家電メーカー」が可能になっている。回路設計などを自社で行わなければならないというのは、もはや古い考え方なのである。
※SAPIO2016年6月号