国際情報

大前研一氏 北方領土問題を解決する「3つの提案」とは

北方領土交渉の打開策は AP/AFLO

 ビジネスでも政治でも外交交渉でも、正論をぶつけて正面突破を図るだけでは事態が膠着することが多い。そうした時、カギになるのは「地政学的アプローチ」と「歴史的アプローチ」と指摘するのは、大前研一氏だ。

 * * *
 安倍晋三首相はロシアのプーチン大統領と北方領土問題について対話を進めているが「4島一括返還」にこだわる限り、解決は不可能だ。しかし、地政学と歴史的経緯を考えれば解決できる。もともと北方領土問題は、第2次世界大戦後のアメリカとソ連のヘゲモニー争いから生まれた。

 日本の頭越しに行われたトルーマンとスターリンの駆け引きの中で、北海道の分割を主張したスターリンに対し、それを避けたかったトルーマンが、妥協案として歯舞、色丹、択捉、国後の北方4島を勝手にソ連に与えたのである。

 日本政府は、北方4島は敗戦が決定的となった日本にソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して侵攻・占領したものであり、本来は日本の領土だから返せと主張している。だが、現実には戦後70年間にわたってソ連、ロシアが北方4島を実効支配している。

 世界中どこを見ても、領土に関する争いは、実効支配しているほうが強い。したがって、いくら日本が「北方領土は日本固有の領土」「ロシアは不法占拠」「4島一括返還」と叫んでも、それで返還されるほど甘くないのだ。

 安倍首相が北方領土問題を解決したいなら、極東だけでなく、ロシア全体を地政学的・歴史的に見なければならない。そうすると、ロシアには失った領土に関していくつかトラウマがあることがわかる。

 その一つがバルト3国である。エストニア、ラトビア、リトアニアはいずれもソ連から独立してEUに加盟したが、まだ3か国には大勢のロシア人が残っており、この人たちはパスポートが取得できなかったり、よい職に就けなかったりして民族的に虐げられている。

 こうしたロシアが西側の縁で抱えているトラウマを理解すれば、北方領土問題解決の糸口が見えてくる。

 プーチン大統領は、日本に北方領土を返したら、そこに住んでいるロシア人がバルト3国のように虐げられるのではないかと恐れている。それなら日本は、同様の悲哀を起こさない方法を提案すればよいのである。

 たとえば、すでに北方領土に住み着いているロシア人に対して3つの選択肢を与えるのだ。それは(1)ロシアに帰りたい人には移住費用を日本が負担する、(2)ロシア国籍のまま住み続けたい人にはそれを認める、(3)日本国籍に変更したい人にはそれを認めるというものである。そういう提案をすれば、プーチン大統領は北方領土返還に前向きになるのではないか。

※SAPIO2016年7月号

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン