今春、60歳を機に再雇用制度で関連会社に出向した山下哲男氏(仮名・60)。新しい職場の上司は20歳も年下で、気苦労の絶えない日々が続いているという。というのも、「年下上司」が自分に話しかける際、口調は慇懃だが、鼻をこすったり、耳を掻くなどの仕草を繰り返し、「話したくない」といった態度が透けて見えるからだった。
上司の本音は、そんな行動から見抜けると話すのは、ビジネス心理学の第一人者で心理学者の内藤誼人氏だ。
「人の本音の65~95%は行動に表われます。心理学では、“人は言葉では嘘をつくが、行動では嘘をつかない”という法則がある。鼻をこするのは“嫌悪感”、耳を掻く仕草は“これ以上、話を聞きたくない”といった感情の表われです」
身体の動きや口癖から相手の本心を読み取ることができれば、ビジネスの現場では大きな武器になる。たとえば、少し怒っている時の身体の動きは「両手を腰に当てる」となり、半信半疑の時は「首の後ろを指でポリポリと掻く」といった動きをする。また、「だけど」が口癖の人は保守的で、決まりきった判断しかできない。「つまり」を多用する人は短気な性格で、なんでもすぐに結論を出さないと気がすまないという特徴があるといわれている。
山下氏の上司のように本心では自分を嫌っている相手の気持ちを好転させる心理術がある。「カメレオン効果」と呼ばれる手法だ。内藤氏が解説する。
「ニューヨーク大学のターニャ・チャートランド博士が、被験者の口調を真似させたAと真似しないよう指示したBのそれぞれを被験者と数分間会話させ、相手に好印象を持ったかどうかを9点満点で評価させる実験をしました。結果は、真似した相手には6.62点、真似しなかった相手には5.91点が付いた。
人は概して、自分に似たものを好きになる傾向を持っていて、これをカメレオン効果といいます。話し相手の調子やしゃべり方を真似することで、相手の好感を得ることができるのです」
※週刊ポスト2016年7月1日号