麻生と菅の戦略は正反対だったが、しかしよく考えれば菅の主張も、「衆参両院ともに2/3の数字を確保する」という、憲法改正に向けた菅なりの青写真だったのである。
麻生らのダブル論を退け参議院単独の選挙を選択した安倍と菅は、自らの選択が正しかったことを証明するためにも、一議席でも多く勝たねばならなかった。
このため、安倍はまず、東京をはじめ定員増の複数区で自民党の候補を「もう一人」立てるよう号令をかけ、自らも候補者選びに積極的に関与した。
一方の菅は、今回定員増区を中心に7人の候補者を立てた公明党との連携を重視、公明候補のいる選挙区は自民党の地方組織もフル動員して協力するとともに、自らも足しげく選挙区入りして公明候補の応援演説でマイクを握った。
自公候補の各地での善戦が伝えられた7月上旬、菅は関係者にこう漏らした。
「何とか憲法改正への環境整備をしたい。前提となるのは参院の2/3、そのためには公明党との連携は絶対条件なんです」
(文中敬称略。第2回に続く)
【プロフィール】やまぐち・のりゆき/1966年生まれ。フリージャーナリスト・アメリカシンクタンク客員研究員。慶應義塾大学卒業後、TBS入社。以来25年間報道局に。2000年から政治部。2013年からワシントン支局長。2016年5月TBSを退職。著書に『総理』(幻冬舎刊)。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号