少子高齢化にともない介護問題が社会的に大きな関心事となり、さまざまな助成金を出す自治体も少なくない。母のために助成金を受給したところ、工事寸前で母が亡くなってしまった場合、助成金は返金すべきなのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
母が要介護となり、私が引き取ることに。ただ足腰が弱っているため、自宅をリフォームしようと市に相談したところ、18万円の助成金が支払われることになりました。しかし、入金を確認して改築が始まる寸前に母が死去。工事を取りやめる場合には、市に助成金を返金しなければいけませんか。
【回答】
道義的に返すべき義務があることは、おわかりですね。法的にも返すべきだと思います。たいていの自治体では、補助金交付に関する規則を定めています。そこでは、補助金の交付決定を受けた後で対象事業をやめる場合などの事情変更があったときには、補助金交付決定を取り消せる旨が定められています。
そして、補助金交付決定が取り消された場合には、あなたが補助金を保持している法的な根拠が失われます。その場合、補助金相当額は市の損失になります。民法703条では「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」と定めています。
これを不当利得返還請求というのですが、お金の不当利得では、その不当利得になった金額の全額が利益として残っていると考えられています。そこであなたは請求を受ければ、その全額を返金する必要があります。
積極的に申し出なくても、おそらくリフォーム工事完了報告などを求められていますので、正直に対応する以上、補助金の必要がなくなったことは市にわかります。もし、工事したと嘘の報告をしても、バレれば同じことですし、不当利得を返す時まで年5%の利息を支払う義務までついてきます。
こうした規則の定めがない場合でも、補助金申込書に返還等に関する類似の記載があったり、他用に使わないなどの誓約を入れているのではありませんか。まったく制限をしない補助金が交付されたとしても、それはバリアフリー工事のために使うという条件付きの贈与といえます。その条件を満たすことができなくなったのですから、市は寄付金の贈与契約を解除して、返還を請求できるでしょう。
四の五のいわずに返すべきです。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号