狂信的な言葉に聞こえる。ただ、戸塚がここまで言う背景を顧みて辿り着くのは、私がかつて取材した強豪高校野球部監督の言葉だ。その高校は一昔前まで、素行が悪く、引き受け手のない中学生が最後に辿り着く場所でもあった。しかし不祥事があれば、そうした事情を考慮されることもなく、あらゆる高校と同等に世間から叩かれる。

「うちの学校の子と、進学校の子を一緒にしたらあかんわ。うちで煙草なんてかわいいもんやで。今の風潮だと、問題を起こす子は取らないのがいちばん楽。でも、そうしたら、どこにも行けん子はどうしたらええんや?」

 戸塚も「捨てる方が冷たい」と言う。戸塚ヨットスクールは原則的に、精神疾患者、知的障害者、自閉症の子以外にはすべて門戸を開いている。ただし、戸塚は今の時代に精神疾患と診断された子どもの8割が誤診だと言い切る。

「学校が手に負えんやつに、みんな病名を与える。発達障害の子どもって、ものすごく増えてるじゃない。あんなのインチキや。そう言えば学校の責任じゃなくなるからでしょ。昔から、自分の子どもを精神疾患だと言われ、納得できない親がうちに連れてくることがよくあった。やってみると、10人中8人は治る。昔はそういう子どもを発達障害なんて言わんやって」

 秩序を守れない子どもたちへのレッテル貼りが進むと同時に、教育現場では「個性」が尊重される時代だという。

「ニートまで個性だなんて言い出すから、日本の教育がおかしくなった。中学生の女の子が売春して、私の権利でしょと言う。おかしいよね。今の教育者は、子どもに恥をかかしちゃいけないって言うけど、悪いことをしたら引っぱたかれる。それがトラウマとなって悪いことをしなくなる。これが人間のあり方よ」

 個人的な体験になるが、私も学生時代、運動部の監督から体罰を受けたことがある。自分は動物じゃない、と思った。どんな些細な体罰であれ、私は反対の立場である。

 ただ、戸塚の意見を暴論だと簡単に捨てることができないのも正直な感想である。万能薬が存在しないように、ありとあらゆる子どもに通用する教育論などありはしない。そして効く薬に害があるように、効果的な教育には負の側面もあるのだろう。

 ごく少数だが、「体罰」というコミュニケーションが必要な子どももいるのかもしれない。

 体罰を容認するかしないは別として、教育を考えるとき「体罰=悪」と何でもかんでも一緒くたにするのではなく、そう思いを巡らせることができる小さなスペースぐらいは残して置いてもいいのではないか。

■戸塚宏/戸塚ヨットスクール校長。1940年生まれ。名古屋大学工学部卒。1975年、沖縄海洋博記念「サンフランシスコ─沖縄単独横断ヨットレース」優勝。1976年、愛知県美浜町に戸塚ヨットスクールを開校。

※SAPIO2016年8月号

関連記事

トピックス

筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
日曜劇場『キャスター』で主演を務める俳優の阿部寛
阿部寛、小泉今日子、中井貴一、内野聖陽…今春ドラマで「アラ還の主演俳優がそろい踏み」のなぜ?
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン