自分の愛するペットが、もしもけがをさせられてしまったら──。ペットに関するトラブルの解決法をペット法学会理事で共著に『ペットのトラブル相談Q&A』(民事法研究会)などがある弁護士の杉村亜紀子さんに見解を聞いた。
【相談】
愛犬の散歩の時のこと。同じ犬種であるラブラドールレトリバーと会いました。最初は仲よくしていたのですが、突然その犬がうちの子の首の後ろに噛みつきました。命に別条はありませんでしたが、大けがを負いました。加害犬の飼い主に治療費などを請求できますか?
(千葉県・ありさママ・36才・主婦)
【回答】
飼い主は「動物の占有者」として、自分のペットが他人や他のペットに加えた損害を賠償する責任を負います(民法718条1項)。法律上は、飼い主が相当な注意義務を尽くしていた場合には責任を負わないとされていますが(同条同項但書)、この“相当な注意義務を尽くしていた”として免責されることはほとんどありません。そのため、たとえリードをしていても、飼い主は賠償責任を負うことになります。
ただし、飼い主が「危ないので近づかないで」とお願いしていたにもかかわらず、愛犬を近づかせたり、自分で近づいて噛まれてしまったなど、被害者側にも過失がある場合は、被害者側の過失割合に従って損害賠償額が減額されることがあります。
◆治療費や通院の電車代などが賠償の対象に
加害者が賠償しなくてはならない損害は、社会的にみて加害行為との間に相当の範囲にあるもの(相当因果関係があるもの)に限られます(民法416条)。ペットが傷つけられた場合、ペットの治療費は相当因果関係にある損害ですので請求できます。
実際の裁判では、通院のための交通費や通院のために飼い主が会社を休んだ場合の休業損害、ペットに後遺障害が残ってしまった場合の車イス代なども相当因果関係のある損害として認められています。
ペットが亡くなった場合は、亡くなった当時のペットの経済的価格が損害となり、賠償の対象となります。ペットの価値は、購入価格・種類・年齢などを踏まえて決められます。無料で譲り受けたペットであっても無価値にはなりません。また、ブリーディングに用いられるペット、警察犬や社会的価値のある盲導犬については、購入価格以上の経済的価値が認められることがあります。
◆加害者にならないよう愛犬から目を離さないで!
ペットは法律上“物”なので、ペットへの慰謝料は認められません。しかし、飼い主にとっては、家族同然の存在であるペットが傷つけられれば、精神的苦痛は大きいものです。そのため、飼い主への慰謝料は賠償の対象となります。金額としては、死亡やけがの程度により、数万円~数十万円が裁判で認められています。
散歩中のトラブルは多く、他人事ではありません。今回のケースは被害者の立場ですが、誰もが加害者にもなりえることを忘れないでください。
※女性セブン2016年8月11日号