国内

相模原事件 「被害者氏名非公表」に従った記者クラブの欺瞞

凶行の現場となった「津久井やまゆり園」

 神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で死者19人、重軽傷者26人(7月28日現在)を出した大量殺戮事件。今回の事件の報道には、これまでの殺人事件と大きく違う点がある。被害者の名前が公表されていないことだ。

 未成年が加害者の場合、少年法があるため、「被害者は実名なのに加害者が匿名」という事態が起きたが、被害者が匿名というケースは極めて異例である。

 理由について神奈川県警は、「遺族が氏名などを出したくないという意見を持っている」と説明した。そのことを新聞各紙は説明しているものの、それに疑問を呈した報道は少ない。

 奇妙ではないか。たとえば同じく7月に起きたバングラデシュでのテロ事件では、「家族の了解を得ていない」として政府が被害者の実名公表を控えるなか、新聞・テレビは次々に実名を報じた。

 朝日新聞は特集を組み、ゼネラルエディターが「人格の象徴である氏名や人となりなどを知ることで、志半ばで理不尽なテロによって命を落とした7人の無念さを社会が共有し、再発防止策、安全対策を探ることができると考えます」と主張した。

 では、なぜ今回に限って沈黙しているのか。服部孝章・立教大学名誉教授(メディア・情報法)が指摘する。

「仮に警察が実名を公表した場合でも、たしかに遺族の意向を踏まえて実名報道を差し控えた可能性が高い。

 しかし一方で、その方が亡くなったことを記録に残すのが人間の尊厳を守るということです。匿名は、その尊厳を傷つける可能性がある。そうした議論をメディアがしなければいけない」

 評論家の呉智英氏は、端的に「差別だ」という。

「かつて、出生時または幼少時からの聾唖(ろうあ)者を守るための減刑を規定していた刑法第40条が、『罰せられる権利がないのは差別だ』として削除されたことがある。今回の問題は、『障害者を守る』という名目で匿名にしている点が、同じく差別なのです。

 世の中の人たちは障害者の権利が制限され、差別されているのに気づかない。あるいは、気づいているが見て見ぬふりをしている。それが、今回の被害者の匿名報道の本質なのです」

 新聞・テレビは気づかないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか。

※週刊ポスト2016年8月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

WEST.中間淳太(37)に熱愛が発覚、お相手は“バスり”ダンスお姉さんだ(右・Instagramより)
《スクープ》“夢の国のジュンタ”に熱愛発覚! WEST.中間淳太(37)が“激バズダンスお姉さん”と育む真剣交際「“第2の故郷”台湾へも旅行」
NEWSポストセブン
事件に巻き込まれた竹内朋香さん(27)の夫が取材に思いを明かした
【独自】「死んだら終わりなんだよ!」「妻が殺される理由なんてない」“両手ナイフ男”に襲われたガールズバー店長・竹内朋香さんの夫が怒りの告白「容疑者と飲んだこともあるよ」
NEWSポストセブン
4月は甲斐拓也(左)を評価していた阿部慎之助監督だが…
《巨人・阿部監督を悩ませる正捕手問題》15億円で獲得した甲斐拓也の出番減少、投手陣は相次いで他の捕手への絶賛 達川光男氏は「甲斐は繊細なんですよね」と現状分析
週刊ポスト
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト