「若い男性ならば誰でも即採用というくらい、人手が足りない状況なんです。職員の採用に当たって“選ぶ”という余裕はありません。賃金は低いわ、正規職員は少ないわという中で働いているうちに、意思疎通の取りにくい障害者がうっとうしくなってしまう。実際、現場からは瞬間的にしろ『敵対感』を抱いてしまうと聞くことがあります」(藤井さん)
例えばイギリスなどでは施設の職員は原則、公務員。賃金も身分も安定しているとあって、求人に対する応募者も多い。その分レベルの高い職員を比較的確保しやすいのだ。「応募者が極端に少ない」日本の危機的な状況とは違う。
そこには社会保障費の分配の差異がある。ヨーロッパは社会的な弱者にウエートを置き予算を割くが、日本は違う。
「経済性を優先するあまり、生産性が低い人々には予算を割いてもしょうがないという考え方が根深く横たわっているのではないでしょうか。この傾向はますます強くなっています」(藤井さん)
前出の岡部さんも、「国が、『お金は負担するから心配しないで地域へ出ろ』と言わない限り、現状は変わらない」と言い切る。実際、岡部さんの息子さんは、2014年から実施された、重度かつ行動障害のある人が使える重度訪問介護というヘルパー制度を利用し、5年前からアパートで一人暮らしをしている。
重度の障害を持っていても、充分な人的支援さえ受けられれば、地域で自立して生きていけるのだ。
「欧米からは20年遅れていますが、近年は国としてなるべく施設を減らして地域で暮らしていこうという政策を打ち出していて、昔に比べれば入所者の数も少しは減って来ています。しかし現状では、その受け皿はグループホームのみ。
普通は、4~6名ぐらいの共同生活ですが、大きいところでは20人規模のミニ施設も。グループホームの暮らしも否定はしませんが、まだ施設から出ることができない重度の人も地域で暮らすには、ヘルパーが最大24時間の支援をする仕組みも確保していく必要があります。そのために国はお金を出し惜しみせず、国民も支持する。それが本当の意味での解決でしょう」(岡部さん)
前出の藤井さんは「今回の不幸な事件が、日本社会全体として障害のある人のことをどう考えるのか、新たな議論のきっかけになることを願っています」と言い、こう続ける。
「障害のある人や家族のみなさんは決して萎縮してはならない。顔を上げていつも通りの生活を送ってほしいです。また地域のかたがたも普通どおりに接してください」
※女性セブン2016年8月25日号