夏に涼を呼ぶうちわ。香川の丸亀、千葉の房州などが産地として有名だが、その多くは、竹に切り込みを入れて骨組みを作り、柄と扇面が一体になっている。だが「京うちわ」は、作り方がこれらとは異なる。
「京うちわの特徴は、持ち手と扇面を別々に制作する、“差し柄”構造です。宮廷で用いられた“御所うちわ”がルーツで、柄は漆に金彩を施すなど、装飾性が高く、優美なものが多いのです」
そう言うのは、元禄2年(1689年)創業の「阿以波」(京都市)の10代目で、現当主の饗庭(あいば)長兵衛さんだ。なかでも、写真のように竹骨が透けて見え、扇面いっぱいに繊細な切り絵細工が施された「透かしうちわ」は、飾って楽しむ雅な芸術品として、国内外からの評価も高い。
「このうちわは、風を起こすためではなく、“目で涼をとる”ことをコンセプトに、先代の9代目当主が考案したものです」(饗庭さん、以下「」内同)
昔から扇面が部分的に透けるデザインのうちわはあったが、全面的に透かし模様の入ったものはなかった。この『阿以波』が作るのは、完全な“両透かし”模様。絵柄部分にのみ紙を貼るという、繊細な作業を行うため、職人の高い技術が必要で、制作には数週間もかかるという。絵柄には、透かし柄をアクセントにしたものや、裏面は全面に紙を貼り、表面のみ切り絵を貼る“片透かし”などがある。
「うちわに紙を貼った後、ヘラで骨の際に筋をつけます。このひと手間をきっちり行うことで、うちわ全体がしっかりするんです」
竹は丹波の4~5年もの、紙は越中八尾の手漉き楮紙、柄には栂や杉材を使用するなど、材料は国内産にこだわっている。夏だけでなく、四季折々の絵柄があり、生花や掛け軸など季節を演出するインテリアとして楽しむ人も多い。
※女性セブン2016年8月18・25日号