「現在は開胸手術でも胸腔鏡を補助的に使い、実際に胸を切るのは10cm程度です。開胸手術と胸腔鏡手術の境界が曖昧なので、一概にどちらが良いかを言い立てることはあまり意味がないと思います」
胸腔鏡手術は胸腔鏡を挿入する1.5cm程度の傷と、肺の組織を取り出すための5cm程度の傷だけですむため開胸手術より患者の負担は少ない。しかし、胃がんの治療と同様にリスクもあるため、両にらみで手術に臨むのだという。
「二次元のモニターを見ながら操作する胸腔鏡手術は慣れないと奥行きが把握しづらく、誤って血管を傷つけ出血し、大事にいたる恐れもあります。なので私は、まず胸腔鏡を用いて手術を行い、難しいと判断したらためらわずに開胸に切り替えます。この場合、最初の胸腔鏡の小さな傷を広げるだけなので、患者の負担は最小限に抑えられます」(田中さん)
手術のリスクを抑えるためには「胸腔鏡」→「開腹」という順序が効果的のようだ。
女性の死亡率1位である大腸がんは進行性の場合でも、腹腔鏡手術が最適になり得ると指摘するのは、腹腔鏡手術の第一人者で、これまで5200件を超える腹腔鏡手術を行った前出の奥田さんだ。
「大腸がんを放置したら転移の他にも腸が詰まって腸閉塞になったり、がんから出血して貧血となるリスクがあります。粘膜にとどまる早期の場合は内視鏡で切除できますが、進行がんで肺や肝臓への転移がなく、全身の状態が良好なら、手術をして大腸がんを摘除するのが最も有効です。その場合、大きな傷が残り、癒着による腸閉塞のリスクが高い開腹手術より、傷が小さい腹腔鏡手術の方が腸閉塞や後遺症が少ないというメリットがあります」
ただし、大腸がんの腹腔鏡手術には、開腹手術以上に高度な技術が必要となる。
「なかでも肛門に近い直腸がんの手術はきわめて難しく、医師や施設による成績の差が大きい。つまり、医師や施設の質はピンキリで、経験や実績の少ない医師なら重篤な合併症や不適切な対応もあり得ます。ひとつの判断基準となるのは手術数で、年間200件以上の大腸がん手術を行う施設が望ましい。大腸がんは心筋梗塞や脳梗塞と違い、罹患してもすぐに命を落とすわけではないので、落ち着いて時間をかけて医師と施設を選ぶことが大事です」(奥田さん)
※女性セブン2016年9月1日号