カネのあるなしで老後と死に方が一変する。そしてその格差は拡大する一方だ。高級有料老人ホームでは、当然ながら多床室ということはまずない。スイートルームのような個室での暮らしが保証される。
そうした個室と多床室型の中間にあるのが、「ユニット型」と呼ばれる施設である。居室は一人ひとり独立しているのだが、10人程度のグループをひとつの生活単位(ユニット)として捉え、ユニットごとに介護ケアが提供される。
トイレは居室ごとに設置されていることが多く、風呂や食堂などの生活スペースはユニットごとに共有するかたちになる。
同じ特養や老健でも、多床室型に比べてユニット型のほうが毎月の居住費は高くなる。その分、ある程度のプライバシーは確保できるわけだ。
各ユニットには固定の介護スタッフが配され、利用者ごとの生活リズムや個性を尊重した細かなケアを受けられる。ただし、介護ジャーナリストで現役の在宅ヘルパーでもある栗原道子氏は過去にこんなケースがあったと語る。
「以前、母親の入る施設を探していた女性の相談を受けたことがあります。その時に娘さんがユニット型の施設を探してきたところ、母親に“出かける前と後に必ずシャワーを浴びたいのに、共有だと好きな時に使えない”と断わられていました。食堂で他の入居者と一緒になるのも気に入らなかったようです」
入居する人の性格や周囲との関係性によって、個室とユニット型のどちらを「死に場所」として選びたいかは分かれるところだが、資金に余裕があるほうが選択の幅が広がるのは間違いない。
関東近郊のある高級有料老人ホームの場合、天然温泉を引いた檜風呂の大浴場が整備されている。シャワーをいつ浴びるかで悩む必要はない。もちろんその施設に入れるカネがなければ望んでも手に入らない生活だ。
同じ金額で少しでも設備のよいところに入るために、郊外の施設を選ぶという考え方もある。首都圏の老人ホーム情報を紹介するフリーペーパー『月刊あいらいふ』の佐藤恒伯・編集長の説明。
「民間の有料老人ホームにしても、老健や特養にしても、家賃部分は地価の低い地方のほうが安くなります」
ただし、住み慣れた場所から遠く離れたところを「終の棲家」とすることに抵抗を感じる人も多く、「娘が探してきた郊外の施設を母親が“そんなに遠くだと友達と会えない”と首を縦に振らなかった」(前出・栗原氏)というケースも出てくる。
どんな環境が気持ちよく住める場所か、“ここで死にたい”と思える場所になるかは人によって異なるが、望んだ最期を手にする機会に恵まれるのは、やはり資金の用意できる人ということになる。
※週刊ポスト2016年9月9日号