ミシュラン2つ星も獲得している銀座にある老舗の天ぷら店「天ぷら近藤」の店主・近藤文夫さんもその1人だ。この26年間、毎朝欠かさず築地に通い続けている近藤さんは、「魚を見る目を持っているのが仲卸です」と断言する。
「ウチはキスだけで毎日90本買いますが、いつも信頼する2社の仲卸に頼んでいます。事前に注文はしないけど、仲卸は暗黙の了解で江戸前の魚を確保してくれます。たんに魚を買うのではなく、最高の魚を手に入れてお客さんに提供するのが私たちの仕事。そのために魚を見る目を持つ仲卸と信頼関係を築くことが何より大事なんです」(近藤さん)
銀座の名店も支える仲卸業者だが、近年、その数は減少しつつある。1990年代半ばには、1000を超えていたが現在では600社ほどになっている。
スーパーマーケットなどの小売店で仲卸を通さない卸売との相対取引が主流になったことや、消費者が産地直送で買うケースが増えたことなどで仲卸業者が衰退しているのだ。
前出・猪瀬さんの指摘。
「仲卸の中でも規模が小さいところは苦境に陥っています。たとえて言えば、家電量販店ができたら街の小さな電気屋がつぶれるようなもの。大手スーパーは産地と直接取引するため、築地は地盤沈下しています。そのため、市場全体の取引量が増えるであろう豊洲に移ることが、彼らが生き残る道だと思います」
しかし、当の仲卸業者からは、移転で一層経営が苦しくなると悲鳴が上がっている。移転に伴う費用は各業者の負担となるからだ。前出の仲卸業者の女将が苦渋の表情でつぶやく。
「今使っている冷蔵庫などもサイズが合わないから買い替えないといけない。引っ越し費用だけで1000万~2000万円もかかる。特別に低利子で借りられるけど、向こうで儲かる見込みもないのに借金はできません。私からすれば、豊洲移転にいいことは1つもないけど、皆さんが行くなら一緒に行くしかない。私らだけ築地に残ることはできません」
前出・和知さんも厳しい現実を口にする。
「移転してお客さんが増えるならいいけど、土壌汚染や不便さでフタを開けたら閑古鳥という可能性もある。豊洲では経営が成り立たないのが最大の問題。私の知っているだけで移転を機に40店の仲卸が廃業する予定です」
※女性セブン2016年9月15日号