「日本では受動喫煙が原因で年間1万5000人が死亡」──これは厚生労働省の研究班が推計し、5月末に発表したデータである。
肺がんや心筋梗塞、虚血性心疾患、脳卒中などの重大疾病が一様に“受動喫煙の影響を受ける病気”とされ、それによる死亡者数が2010年の2倍以上に増えたとする衝撃的な内容だった。
今さら説明するまでもないが、受動喫煙とは〈他人のたばこの煙を吸うこと〉。喫煙者が吐き出した「呼出煙」と、たばこの先端から出る「副流煙」を非喫煙者までもが吸い込むことによって起こる健康リスクが問題視されているのだ。そのため、分煙化や屋内禁煙などの受動喫煙防止対策があちこちで取られている。
だが、10年前に41.3%あった成人男性の喫煙率(JT調べ)は、いまや29.7%と3割を切るまでに減っているうえ、職場やレストラン、自宅でも“ホタル族”にみる分煙化は急速に進んでいる。非喫煙者がたばこの煙にさらされる機会は間違いなく減っているはずなのに、受動喫煙による死亡者数がぐんぐん伸びている調査結果が示されても、どうも信ぴょう性に欠ける。
そこで、喫煙者と非喫煙者が1日にどの程度たばこの煙を吸い込んでいるかをニコチンの濃度検出で継続的に調査している、産業医科大学の秋山幸雄准教授(専門は環境科学)に話を聞いた。
「もっともニコチン濃度が高いのは喫煙者グループで、次に多いのは非喫煙者でも居酒屋やパチンコ店など、たばこの煙が多い場所に出入りしていたグループですが、それでも喫煙者の半分以下の濃度でした。そして、周囲に喫煙者がいなかったり、街中で喫煙者とすれ違ったりしただけと答えた人たちからは、ごく微量のニコチンしか検出されませんでした」
予想通りの結果といえるが、注目すべき点は煙の吸入量や時間が比較的多かった非喫煙者でも、ニコチン濃度は極端に高くないということだ。秋山氏は「環境に出たたばこ煙は、空気中で拡散して薄められるため、周囲の人が吸い込む煙は喫煙者に比べれば僅かな量といえる」と分析する。
中部大学特任教授の武田邦彦氏も、以前当サイトに、〈たばこを吸わない人が喫煙者と6畳の部屋に1時間一緒にいても、吸い込む煙の濃度は直接吸う人の約1000分の1にしかならない〉との自説を唱えていた。