「彼女は気にもとめていませんでした。“ブラジャーって水着と一緒でしょ?”って。だからそのあとも、“本番では声の通りをよくするためにブラジャーをつけないんです”ってさらりと話したりして。人や物事に対して、すごくフラットな人なんだな、と思いました」
申さんが、田中さんの取材を通していちばん印象的だったことは、何気なく聞いた「歌うのが好きなんですね」という問いかけへの答えだった。
「彼女、“食べていくため、生きていくためにやっている”と話したんです。“ピアノをやっていたけど手が小さくてプロは難しいなって思った時に、歌の可能性があった。そこに賭けただけ。でも、ここまでやってるから好きなんでしょうかね”って淡々と話したんです。ぼくはひとりの人間として、田中さんをすごく魅力的に感じました。
田中さんは、“私、こんなに高い声が出るのよ”とか、“クラシックって素敵でしょ?”という鼻にかける感じが一切ない、ごく普通の女性なんです。でも、やるべきことはちゃんとやる。2か月後のステージのために、ただひたすら朝から晩まで練習して、コンディションを整えるためにきちんと食べ、きちんと寝る。そういったことを18才の頃からたったひとりでずっとやってきたわけです」(申さん)
前述のフォトエッセイでは涙の日々も初めて明かしている。そのしなやかな強さは、彼女の声と同様に、胸の深い部分に届く感動を与える。
※女性セブン2016年9月15日号