死を宣告されたとき、人は何を考え、どう行動するのか。死の間際まで隠し通した「誰にも言えない秘密」を、死んだ後も守り抜きたいと考える人もいる。
余命宣告ではないが、歌手のブラザー・トムは2006年、50歳の時に急性心筋梗塞で入院した。倒れる直前に、死の“予兆”を感じ、急いでパソコンに保存してあったエッチな画像を全て消去したという。
彼一流のジョークのように聞こえるが、「俺も不安だ」という男性は多いのではないか。2000人の患者を看取ってきた長尾クリニックの長尾和宏院長は末期がん患者のこんな“最後の願い”を受けたと振り返る。
「会社を経営していた男性が、奥さんが外出して僕と2人きりになった時に、『僕には愛人がいて、本当は妻より彼女のほうが好きだった。それを先生に言っておきたかった』というんです。奥さんに申し訳ないと思いながらも、他に打ち明けられる人がいなかったんでしょうね。最期まで言えない、でもどこかでモヤモヤする気持ちを誰かに伝えてから逝きたかったのだと思います」
隠したい秘密は女性にも多いかもしれない。夫と別居中だったある60代の女性は「夫の家で死にたくない」と言って、親友のAさんの家で最期を迎えた。
「その女性は全身に見事な入れ墨をしていましたが、そのことを隠してずっと仕事を続けていた。職場の誰ひとり、彼女の入れ墨のことは知らなかったそうです。彼女は僕に『最後まで知られずに、焼き場まで行きたい』と懇願しました。葬儀屋さんから漏れたら嫌だというので、遺体を清めるのも僕とAさんの2人だけでやってほしいと頼まれました」(同前)
最も多い「最期の願い」は、“最後の晩餐”についてだという。やはり、好きなものを食べて死にたいと言う人は多い。
「私の病院は関西にあるからか、最後に『みんなでお好み焼きか、たこ焼きを食べて死にたい』という希望がありました」(同前)
酒が好きで最後に「一滴だけでも飲みたい」という人も少なくないという。あなただったら、どんな最期を望むだろうか。
※週刊ポスト2016年9月16・23日号