経営者として辣腕を振るい経団連会長、第二次臨時行政調査会長まで務めた土光敏夫氏は、一方で「メザシの土光さん」とも呼ばれたように質素な生活を貫き、その生き方は「清貧」そのものだった。その思想は没後28年経っても色あせることはない。現代の日本人が生きていくヒントが数多く含まれる同氏の言葉を紹介しよう。
「僕の家には、ずっと冷暖房設備がなかった。人間、天然自然の法則によって生きればよいと考えていたので、冬の隙間風、夏の蒸し暑さも、それはそれでよいと思っていた」(『土光敏夫大事典』)
「人間、庶民感情を失くしたらアガリだ。雲上人になってしまうと、本当の世の中が見えなくなってしまう。今使っているヒゲそり用のブラシ、これ、もう五〇年も愛用している。(中略)一月の生活費なんか、ちょっと前までは三万円くらいですんだ」(『土光敏夫大事典』)
「僕はなんでも自分でやる主義です。出張に行っても自分の下着は自分で洗うし、家にはメイドを置いたこともない。(中略)豪邸に住んで派手な生活をするような人は、あまり信用できない」(『土光敏夫大事典』)
「おカネは有効に使うことですよ。ネオンの街に消えてしまうのじゃもったいない」(『土光敏夫 信念の言葉』)
「社長がエゴをむき出したら、下の者はついてこない。総理総裁にしろ、社長にしろ、リーダーに要求されるのは“無私の人”であることだと思う」(『無私の人・土光敏夫』)
「サラブレットはカッコいいが、僕はそれよりも野ネズミのほうが、より強いと思うわけです。(中略)野ネズミは踏まれても蹴られても、へこたれない生命力を持っている。人間だって、その本質に変わりはなく、いざとなれば野ネズミのしぶとさを持つ者が、サバイバル戦争に勝ち残る」(『土光敏夫大事典』)
「よく若い人に言うのだが、一日も早く“地力”をつけよ、と。僕はこの“地力”という言葉が好きで、これは人間の足腰を鍛え、少々のことではへこたれない本物の力を意味する。地力をつけるには、苦労を体験するのが必須条件だ」(『土光敏夫大事典』)
※SAPIO2016年10月号