肺の炎症は、広範囲になるにしたがって、体に酸素が取り入れられなくなるところに特徴があり、その苦しみは想像以上のものだという。“咳が出て息苦しい”というイメージからすれば、「喘息」と「肺炎」は似ているように思えるが、専門家によれば大きく違う。
「喘息の苦しさは、気管が細くなって肺の奥まで空気が届かないことによるもの。だから必死で深呼吸すれば少しは和らげられる。一方の肺炎は、酸素を取り入れる肺胞(※気管支の末端に位置する組織で、二酸化炭素と酸素の交換を担う)のはたらきそのものが低下しているので、いくら一生懸命に息を吸っても苦しいままなのです」(前出・秋津氏)
看取りケアの現場では「3大疾病よりも苦しい亡くなり方」ともいわれる。
「酸素が取り込めないわけですから、首を絞め続けられている、あるいはずっと水の中で溺れかけているのと同じで、とにかく苦しい。最期を迎える前に、酸素が脳に回らなくなって意識を失うこともありますが、その方が楽とさえいえる。
意識を失わず、苦しみの中でそのまま亡くなる方も少なくありません。そうした場合、呼吸困難によって顔や唇などが紫色になるチアノーゼが現われることもあります」(前出・高築氏)
つらく苦しい思いをするのは患者本人だけではない。
「たとえ家族が在宅で看取ろうと思っていても、肺炎を発症したら、入院させざるを得なくなります。
病院では、看護師さんが1日3回くらい患者の口や鼻からチューブを入れて痰を吸引してくれるのですが、家族にとっては、そうした姿を見るだけでつらい。痰の吸引の時だけは家族にも席を外してもらう配慮をする病院も多いです」(有料老人ホーム「グレイスフル加美西」の武智聖子施設長)
※週刊ポスト2016年9月30日号