国内

エア取材問題の深層 フリーライター歴25年のベテランが考察

ちゃんと顔をつきあわせて仕事してますか?(写真:アフロ)

 実際に取材をしていないのにあたかもしたように装って記事を制作するいわゆる「エア取材」、つまりねつ造記事の問題が連日ネットを揺るがしている。フリーライター歴25年の神田憲行氏が考える。

 * * *
「エア取材」が話題になる前から、最近ふと自分の仕事に疑問を感じることがあった。「これ、俺が本当に取材したかどうか、編集者はわからへんな」と。実際に取材したかどうかなんて、私の記憶にある限り確認されたことは一度も無い。それは私がベテランだからというのではなく、若いときからない。

 理由は簡単で、インタビュー取材ではだいたい相手の写真を撮影しているからだ。また取材をテープに録音していて、テープ起こしもしている。若いころは編集者から「もっと面白い話は聞けていないのか」と怒られて、そのテープ起こしした原稿を見せていた。

 電話取材のように写真が撮れず、匿名氏の証言のように録音不可の取材(そういう人がたまにいるのです)の場合はどうするかというと、取材ノートが決め手になる。私はそこまで確認されたことはないが、訴訟リスクに備えて一定期間ノートを保管するように編集者から勧められたことはある。今でも取材ノートは2年は保管している。幸い訴えられたことはないが。

 それでも昔はよく、新聞記者の人から「週刊誌はでっち上げの記事が多いんでしょ」と言われたものだ。とくに出てくる人間が匿名ばかりの社会風俗系の記事は疑われた。

 週刊誌でアンカー(他のライターが取材したデータ原稿を元に記事原稿をまとめる役)をしていたとき、「人妻合コン実況中継」という原稿を書いた。いま自分で改めて書いて膝から崩れ落ちそうなくらいトホホな記事だ。1ミリも健全な社会の建設に貢献しない。それでもちゃんと編集者とライターは人妻さんたちを呼び出し、個室居酒屋でエッチな雰囲気の合コンをしていたのである。文字データだけだと私の筆が乗らないと編集者は予想して(当たり前だ)、人妻さんの後ろ姿の写真まで撮ってきた。

 その写真を睨みながら、私は「栗色のカールした髪の毛が肩まで伸びて」など描写していく。あんまり正確に書いて人妻さんが「身バレ」(身元がバレること)するとマズイので、細かくは書かない。また「ウイスキーの水割りをマドラーで混ぜたときに胸が揺れる」とか、データ原稿にない描写も混ぜておく。これを「ねつ造」といわれると辛い。

 名前も「A子さん」「B子さん」では寂しいので、「○○美さん(匿名)」のように命名する。これもルールがある。ある風俗店の体験ルポのアンカー仕事をしていて、風俗嬢について「松嶋菜々子似」と書いたら担当編集者から「これはいけません」とクレームがついた。

「なんで?」

「松嶋菜々子みたいな美人がピンサロにいるわけがない。リアリティがありません」

「あのさ、クレオパトラがピンサロで働いているて書いてるわけじゃないんだから」

 そこで彼としばらく話し合ったのだが、結局、松嶋菜々子はダメというラインは譲らなかった。普段は女について紙のように薄いモラルしか持ち合わせていない男が、なぜそこまで松嶋菜々子を神聖視しているのか不思議だった。

関連キーワード

トピックス

あとは「ワールドシリーズMVP」(写真/EPA=時事)
大谷翔平、残された唯一の勲章「WシリーズMVP」に立ちはだかるブルージェイズの主砲ゲレーロJr. シュナイダー監督の「申告敬遠」も“意外な難敵”に
週刊ポスト
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供、右/時事通信フォト)
《激しい損傷》「50メートルくらい遺体を引きずって……」岩手県北上市・温泉旅館の従業員がクマ被害で死亡、猟友会が語る“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
財務官僚出身の積極財政派として知られる片山さつき氏(時事通信フォト)
《増税派のラスボスを外し…》積極財政を掲げる高市早苗首相が財務省へ放った「三本の矢」 財務大臣として送り込まれた片山さつき氏は“刺客”
週刊ポスト
WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 維新まで取り込む財務省の巧妙な「高市潰し」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 維新まで取り込む財務省の巧妙な「高市潰し」ほか
NEWSポストセブン