これを機に、武騎手に「いい馬だ」といわれるような馬を育てなければ、と強く思うようになった。そういう意味でも、この馬の存在は角居厩舎の原点かもしれません。
その後3歳時は骨折もあって全休、2004年になっても中山金杯(14着)、中山記念(9着)、大阪杯(9着)、新潟大賞典(7着)など雌伏の時期が続きました。抑えはきくようになったものの、最後に弾けることもない。
しかし、この馬には不思議なオーラがある。暴走グセさえ正せば必ず好走できる。気持ちを込めて調教に勤しみました。
そして吉田稔騎手の手綱で臨んだ5月末の金鯱賞(中京 芝2000メートル)。道中後方で折り合って直線でギアがあがり、前年にJCを勝ったタップダンスシチーを外側から凄まじい末脚で追い詰め、アタマ差の2着でした(しかもコースレコード!)。続く関屋記念(新潟 1600メートル)も好位でガマンして抜けだし、待望の重賞2勝目。1分32秒3の好タイム、覚醒したかのような勝ちっぷりでした。
そして迎えた毎日王冠。2番人気、跨がるのは四位洋文騎手。テレグノシス、ローエングリンに敗れたものの3着。もうこの馬は大丈夫だと息を吐きました。
しかし、直後から長い休養に入り、復帰叶わず引退。GIの舞台を一度も走らせることができませんでした。パドックで感じるふとした秋風に、ブルーイレヴンの面影が重なることがあります。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号