ミヒャエル・エンデは華厳経を読んで児童小説『ネバーエンディング・ストーリー』を書いたようです。彼は鈴木大拙の著作を愛読したと言っています。鈴木大拙は華厳経を英訳して出版しました。エンデはドイツ人ですから、土井虎賀壽のドイツ語訳華厳経も読んだかもしれません。
ネバーエンディング・ストーリーは、一人の子供がファンタジェンという空想世界(仏教でいう「空」の世界)に入る物語です。華厳経の曼荼羅の世界を想定したと思われるファンタジェンという言葉は、ミヒャエル・エンデが古代ギリシャ語のファンタジア(空想)から作った造語でしょう。
子供が本を読まなくなったせいで、理想世界であるファンタジェンが「虚無」によって破壊されていく。これを阻止するために、アトレーユは一人の子供をファンタジェンに引き入れます。
華厳の世界では一人が一切なのです。この物語は映画化されました。そのキャッチ・コピーの一つが「失われつつある理想を復活する為に」というものでした。その理想が、日本を経由して西洋に伝わった華厳の理想であることを、この映画を観る日本の子供たちに知ってほしいと思います。
●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。 1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医、僧侶として患者と向き合う。2014年10月に最も進んだステージのすい臓 がんが発見され、余命数か月と自覚している。
※週刊ポスト2016年10月28日号