国際情報

孫正義のジャパニーズドリーム実現 韓国での受け止め方は

韓国の誇りか無心の対象か

 佐賀県・鳥栖の朝鮮部落に生まれた孫正義は、裸一貫で時価総額8兆円の巨大帝国を作り上げた。在日が実現した「ジャパニーズドリーム」は、祖国・韓国ではどう受け止められているのか。『あんぽん 孫正義伝』著者の佐野眞一氏がレポートする。

 * * *
 経営者・孫正義の真髄は、米でヤフー、中国でアリババを発掘した投資眼に尽きる。孫が世界各国の人材やベンチャー企業を発見する様は、未掘の金鉱探しのようにも映る。

 だが、孫の関心が母国・韓国に向いたことは少ない。財閥中心の閉鎖的な韓国経済に、孫の心をくすぐる宝は埋まっていないのか。それとも、祖国に対する複雑な感情が投資意欲を鈍らせるのか。

 一方、韓国人は孫をどう見ているのか。5年前、『あんぽん』取材の途次に訪れたソウルで、孫の評判を聞いてみた。皆、成功者として認識してはいるものの、彼らの口ぶりから熱気を感じることはなかった。ある韓国の企業人は孫が「在日」だから誇らしいのではなく、世界的成功を収めた孫が「韓国にルーツを持っていること」が誇らしい、と言った。この言葉を聞いた時、やれやれ、歴史観を消失してしまったのは日本人だけではなかったんだな、と私は胸の内でつぶやいた。

 私が初めてソウルを訪れた40数年前、今でこそ韓国の銀座といわれる明洞(ミョンドン)は、ひどく薄暗かった。街はマニラやバンコクなどと共通するアジア特有の不気味な埋蔵量を感じさせたが、外観はおよそ垢抜けていなかった。金浦空港を出るなり、突然声をかけてきた少年が今でも印象深い。

「日本の新聞、十円だよ」

 思わず買うと1か月前の新聞だった。顔をあげるともう少年は、風のように消えていた。当時、韓国はまだ貧しかったが、「在日」にまとわりつく悲哀を、国民全員が共有していた。

 私が生まれた東京・下町の在日韓国人が言った言葉が忘れられない。「美空ひばりは韓国人だ。あんなに歌のうまい日本人がいるはずない」。この話が真実かどうかに興味はないし、詮索してもあまり意味はない。ただ、在日という宿命を背負った人間の「都市伝説」信仰の根深さに圧倒された。

 だが、漢江(ハンガン)の奇跡といわれた1960年代の驚異的高度経済成長や1988年のソウル五輪の開催に伴い、この種の話をする者はほとんどいなくなった。とりわけ、1990年代末の通貨危機を乗り越え、今や日本に対等に物を言うようになったこの国では、対馬海峡を命からがら渡った末に、炭鉱夫や土方といった重労働に就いた在日の物語は、完全に忘却されてしまった感がある。

 そのくせ従軍慰安婦問題はいつまでもトラウマとして突き刺さっている。こうした矛盾した現実に異様なものを感じながら、私は孫の父方の祖父の生まれ故郷の大邱(テグ)に足を運んだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
【無理にやらなくていい&やってはいけない家事・洗濯衣類編】ボタンつけ・すそあげはプロの方がコスパ良、洗濯物はすべてをたたむ必要なし
【無理にやらなくていい&やってはいけない家事・洗濯衣類編】ボタンつけ・すそあげはプロの方がコスパ良、洗濯物はすべてをたたむ必要なし
マネーポストWEB
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン